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論文の種類
論文とは学問の問題について十分な論拠をもとにして論理的な手法で主張や証明を記した文章のことで、主に「学術論文」と「学位請求論文」の二つの種類があります。
1.学術論文
研究者たちは論文を書くことによって新たな発見や物事の解釈・説明を世の中に発表します。この論文を学術論文といい、細かくは下記の種類に分かれます。
原著論文(Research Article, Journal Article, Full paper)
スタンダードな論文の発表形式。査読(後述)という審査を通過したものが学術雑誌に掲載される。原則として1つの論文では一つの問題を扱う。手法については他の研究者が同じ研究を実施することができるだけの十分な情報を記載する。学術的な新規性(まだ誰もどこにも発表していないこと)が求められる。
総説論文 / レビュー論文(Review Article)
特定の分野やテーマについて先行研究をまとめた論文。新規の内容は含まない場合が多い。そのテーマについて知りたいときはこの総説論文を読むことで概略をつかんだり、重要な先行研究の存在やそれに対する評価を知ることができる。
レター論文 (Letter)
原著論文が投稿されてから審査を経て掲載されるまでには時間がかかるため(多くの場合、数か月以上)、重要な結果をいち早く発表するための形式がレター論文として用意されている雑誌がある。また、レター論文だけが独立してできた雑誌もある。レター論文の原義は上記の通りだが必ずしも審査が短い期間で終わるとは限らない。
会議講究録 / プロシーディングス (Proceedings)
一部の学術会議(学会)では研究者が発表するとき、その内容を事前に論文としてまとめて投稿し、発表に値すると認められる必要がある。この論文をまとめたものがプロシーディングスと呼ばれる。プロシーディングスは多くの場合、原著論文よりも低く評価されるが、採択率が低い重要な会議(トップカンファレンス)の場合は原著論文扱いとして評価される分野もある(情報系など)。
2.学位請求論文
広義には大学の卒業論文、大学院の修士論文、博士論文のことを指しますが、一般的に学位論文というと博士論文のことを指すことが多いです。博士論文については、通常、提出後に口頭試問があり、それと合わせて博士の学位審査の合否が決定されます。
学術論文の書き方・構成(IMRAD)
学術論文の代表的な構成について説明します。Introduction(導入・序論), Methods(方法), Results(結果), And Discussion(考察・議論)の頭文字をとってIMRADと呼ばれます。多くの場合これの前後にタイトル、アブストラクト、まとめ、参考文献が入って論文となりますが、順に説明します。
Title
論文の題名。簡潔に論文の内容を表すタイトルをつける。論文の顔となる重要な部分。
Abstract
本文の内容を短くまとめたもの。「短さ」の制限はジャーナルによって異なる。
Introduction
何についての研究か、なぜその問題を研究する必要があるのかを先行研究の中での位置づけを明確にしながら記述する。また、どのような手法、切り口で研究するかについても記述する。
Methods
具体的にどのような方法を用いて研究を行ったのかを記述する。実験を伴う研究においては実験の方法、原理、装置の構成、手順、解析方法、用いた試薬・機器の情報を他の研究者が同様の実験を行えるよう記載する。
調査を伴う研究では、調査の対象、標本の抽出法、調査の手法、統計処理の方法について記載する。
データ分析を伴う研究では、データの取得方法、前処理の方法、使用したモデルや統計手法について記載する。
Results
研究によって得られた結果について報告する。データについてはIntroductionで提起した問題・仮説に答える根拠となるもののみを載せる。重要度は低いが掲載すべきと判断したものについては付録に掲載する。
Discussion
Resultsで示したデータについての解釈を論理的に説明する。それによって論文の中で仮説が支持されるのかどうかについて論じる。また、先行研究の中での位置づけも行う。
Conclusion
全体をまとめる。
この形式の文章では、広い視点から研究を位置づける話から始まり、徐々にその論文で扱う課題に話題が絞られていきます。逆に、Discussion/Concusionでは得られた結果の説明からそれが意味すること、今後の展望といった話に視点が広がっていくという特有の論理展開を持ちます(ワイングラスモデル)。近年ではジャーナルによってMethodsをDiscussion/Conclusionの後に記載する構成も多く採用されていますが、本質的な構成に違いはありません。
原著論文の審査(査読)について
査読プロセス
ジャーナルに投稿された論文原稿は別の研究者がレビューする制度、査読(Peer Review)を経て掲載が決まります。このシステムについて解説します。一般的にこのプロセスには
著者(Author)、編集者(Editor)、査読者(Reviewer/Referee)の三者が関わります。
著者
論文を書いた人。その研究に最も貢献した人が筆頭著者(著者リストの最初に記載されている人)となる。
編集者
雑誌の編集を担っている人。最終的に論文を掲載するかの決定権を有する。
査読者
該当する論文と同じ分野の研究者の中から編集者によって選ばれる。通常複数人数になることが多い。
著者によって投稿が行われるとまず、編集者が論文を確認します。ネイチャーなどのハイインパクトジャーナルと呼ばれる雑誌では、この段階でかなりの割合の原稿が掲載に値しないと判断され、掲載拒否の判断がなされます(エディターキック)。
審査する価値があると認められた論文については、編集者が選定した査読者に原稿が送られます。通常、この査読者が誰であるのかは著者には知らされません。査読者はこの原稿について内容を審査します。たいていの場合、内容についての審査レポートとともに具体的な評価を付けることになっており、大きく次の四つのうちのどれかを答えます。
Accept そのまま受理しても良い
Minor revision 若干の修正の後掲載しても良い
Major revision 少なくとも大幅な修正の必要があり
Reject 掲載拒否(修正した原稿の再投稿も認めない)
それを受け取った編集者は以下の判断を行います。基本的に編集者の権限は独立であり、査読者の意見は参考程度であるということになっていますが、実際はほぼ全員の査読者が掲載に賛成であるという状態にならないと受理されない場合が多いです。
1.掲載拒否の場合
著者に審査コメントが送付され、そこで審査が終了します。
2.審査継続の場合
大抵の場合、多少の修正を要求されます。著者はこれを反映した改訂版を作成し再度投稿します。この修正の分量や内容によって再度同じ査読者によって審査が行われたり、そのまま受理されたりします。
3.受理の場合
滅多にありませんが、そのまま掲載OKになる場合もあります。
以上が査読プロセスの概要になります。
査読の問題点
査読のシステムは専門家による審査によって論文の正確性を担保するというものですが、様々な問題が指摘されています。
1.コストがかかりすぎる
査読者は基本的に忙しい研究者が無償で行っていますが、1本の論文を審査するのにもそれなりの時間がかかります。一年間に投稿される論文の数は増え続けていることもあり、なかなか引き受けてくれる研究者が見つからず、審査がスタートするまでに時間がかかってしまう問題も発生しています。
2.査読者による不正
競争の激しい分野においては査読者がその論文のアイディアを盗み、審査で時間稼ぎをしている間に自らが別の論文に先に発表してしまう、という不正が発生しています。もちろん、これは許されざる研究不正ですが、そうしたリスクを防ぎきるのは難しいというのが現状です。
3.査読の質の問題
論文の掲載の可否は少数(多くの場合2,3人)の査読者のレポートに大きく依っています。重要な研究成果の評価を正しく行うことは専門家であったとしてもしばしば難しく、それによって論文の行方が左右されるのは如何なものかという議論があります。
査読についてはこちらの記事や下記の論文に非常によくまとまった解説があります。
佐藤翔. 情報の科学と技術 66 (3), 115-121 (2016)
インパクトファクターとは
論文雑誌を比較するときに、どの雑誌の論文がよく引用されているか(≒インパクトのある内容を発表しているか)を知るために考案されたものがインパクトファクターという値です。3年前から1年前までの2年間に発表された論文が、1年前から現在までの1年間で平均的に何回引用されたかを算出したものがインパクトファクターの値になります。これまではインパクトファクターの高いジャーナルに論文を通すことが研究者としてのステータスとして重要視されてきましたが、様々な問題も指摘されています。別の指標も用いた総合的な評価に向け様々な議論が進んでいます。
インパクトファクターの詳細についてはこちらの記事もご覧ください。
論文の調べ方
下記のような様々なサービスが存在し、論文を検索することができるようになっています。英語の文献であればGoogle Scholarで事足りますが、分野によっては他にも有用なデータベースが存在します。
Google scholar
CiNii Articles
MEDLINE(医学系)
PubMed(医学系)
ERIC(教育系)
J-stage
国立国会図書館オンライン
学術研究データベース・リポジトリ
学部の卒論論文とレポート課題の違い
レポート課題では与えられた問題に対して、既存の情報を整理し、まとめた上で必要に応じて自身の主張を行いますが、卒業論文では学術的に新規の内容を論理的な手法でまとめます。
卒業論文では通常、指導教員からテーマ(やそれを設定するためのヒント)を与えられ、課題として設定します。このテーマは、今までに誰も調べて発表したことがない(と少なくとも教員が考えている)問題です。これについて様々な調査、実験、考察をもとにして結論を出していきます。この問題を調べることがいかに学術的に意味があるのか、また先行研究では何が知られていて、何が調べられていないのかを明示的に示すためにこれらをまとめる必要があります。
卒業論文の構成
卒業論文は例として以下のような構成で書かれることが多いです。
表紙
論文のタイトル、提出日、氏名、学部学科、学籍番号などを記します。
目次
Wordなどで作成していると自動で挿入できます。
序論
問題の背景、なぜその研究を行う必要があるのか、また先行研究がどうなっているのかをまとめます。
方法
実験や調査を行った場合は、それについて詳細に記します。理論系の論文の場合は無い場合もあります。
結果
研究によって得られた結果について報告します。結果の解釈や考察は原則ここでは行いません。
考察
得られた結果に対して、それが期待した仮説を支持するものであったのか、あるいはそうでなかったのかを述べます。次になぜそのような結果になったのかを、根拠に基づいて論理的に推察して記述します。また、研究の結果当初の仮説とは関係しないが注目すべき結果が得られた場合はそれについても触れます。
結論
ここまでの論文全体のまとめを書きます。
参考文献
引用した参考文献のリストを記述します。記述のフォーマットは統一します。
謝辞
研究に協力してくれた人々に対する感謝の言葉を述べます。
卒業論文における研究テーマの決め方
研究テーマを自分で設定する必要があるか、あるいは教員から提示されたテーマで論文を書くかは分野や教員のスタイルによっても異なります。研究テーマを自分で設定する必要がある場合、どのように決めたらよいでしょうか?重要な点をいくつか紹介します。
まず一つはできるだけ自分が興味を持てるテーマを選択することです。卒業論文を書きあげるには、かなりの量の文献を調べたり、考察を加えたりする必要があります。興味を持てないテーマでこうした作業をやりきるのは苦行です。また、どうしてもテーマが見つからないときは片っ端から色々な本を読んでみるというのも良いかも知れません。
もう一つは指導教員と相談するということです。自分で思いついたテーマが卒論研究に適しているテーマかどうかを判断するのは難しいです。様々なアイディアを出し、「こういう研究テーマはどうでしょうか?」と相談すれば経験に基づいたアドバイスがもらえるはずです。指導教員は、このテーマなら大体これくらいの分析でこういうまとめ方が可能だろうな、という見積もりを行っていますので、こうしたアドバイスは大いに参考にすべきでしょう。
卒業論文における先行研究の調査の仕方
分野にもよりますが、特に文系の卒論の場合、研究テーマが決まったら先行研究の調査を行います。自分が設定したトピックについてどのようなことが既に論じられていて、どこからが明らかになっていないかを明らかにする必要があります。また、関連する先行研究が非常に少ない場合は、拠り所にできる論点や議論が少なく、それらを最初から自分で組み立てる必要があるため、論文を書くのが難しくなります。
参考文献の調査の仕方ですが、以下のような方法があります。
1.関連論文の参考文献からたどる。自分のテーマと近い論文を見つけることができれば、その参考文献リストに含まれている文献がまた関連度の高い論文になっています。その中でさらに関連が深そうな文献をあたり、またその参考文献を見る、という作業を繰り返すことで文献を集めることができます。
2.被引用文献を見る
関連する論文がGoogle Scholar(https://scholar.google.co.jp/)で検索して見つかる場合、その論文「を」引用している論文のリストを見ることができます。これもまた上記と同じように、関連度の高い論文になっているというわけです。
3.図書館で関連する書籍や雑誌を見る
図書館でテーマに関連する文献を検索し、参考になるものがないか探します。書籍の文献が重要な分野の場合こうした調べ方が重要になります。
4.指導教員に尋ねる
指導教員も必ずしもすべてのテーマの重要文献に精通しているわけではありませんが、手掛かりになる文献の知識や、このあたりを調べたらいいのではないかというアタリを付けるヒントをもらうことができるでしょう。
卒業研究における文献の読み方
集めた文献を研究にうまく利用するためは、ただ読むだけではなく、目的をもって読むことが必要となります。その文献が何を主張しているのか理解したうえで批判的に検討します。特に、別の先行研究との差異や自分が感じた疑問点は論文としてまとめる際に重要な鍵になります。こうした手掛かりをもとにさらに文献を調べたり、新しい視点で文献を読み込むことで少しずつ論旨を組み立てていきます。
日本語論文に使用できる表現・できない表現
論文では基本的に俗語・口語を避け、フォーマルな語に言い換える必要があります(あるいは、そもそもそのような記述そのものが不要であるパターンも多いです)。代表的なものについてここで紹介します。
最近 → 近年
とても、かなり → 非常に、極めて
大変である、難しい → 困難である
良くする → 向上させる、改善する
使う → 利用する、使用する
調べる → 調査する
作る → 作成する
続ける → 継続する
分ける → 分割する
お年寄り、老人 → 高齢者
変わる → 変化する
思う → である(言い切る)、と考えられる(根拠を示したうえで)
かもしれない → 可能性が考えられる
どの → いずれの
~なので → ~のため
だから → したがって、その結果
面白い → 興味深い
英語論文表現集
英語論文を書く際に有用な表現についてもここで紹介しておきます。
however しかしながら
hence したがって
therefore したがって
thus したがって
furthermore, moreover そのうえ
Also, そのうえ
nevertheless それにもかかわらず
agree with と一致する
coincide with と一致する
be consistent with と矛盾しない
inconsistent 矛盾する
discrepancy 矛盾、不一致、差
confirm 確認する
verify 確認する
associate 関連付ける
relate 関連付ける
correlate with (to) と相関する、と一致する
attribute to (原因を)に帰す
be concerned with 関係がある
involve 伴う、関連させる
clear 明白な
apparent 明白な
evident 明白な
obvious 明白な
It appears that と思われる
obscure はっきりしない
unclear はっきりしない
found that を発見した、ということが分かった
reveal 明らかにする
elucidate 明らかにする
observe 観測する、観察する
report 報告する
show 示す
presented 示す
demonstrate 示す
propose 提示する
conclude 結論づける
prove 証明する
evaluate 評価する
estimate 見積もる
assume 仮定する
presume 仮定する
postulate 仮定する
posit 仮定する
hypothesize 仮説を立てる
believe 信じる
consider 考える
interpret 解釈する
perform 行う
conduct 行う