論文基礎知識

インパクトファクター徹底解説!

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インパクトファクターってなに?

論文雑誌・ジャーナルについて

学術論文の多くは論文雑誌の記事として発表されます。例えばNatureやScienceといった超一流雑誌の名前を聞いたことがある方は多いでしょう。これらの雑誌は分野を超えた重要性(general interest)を認められたごく一部の重要な論文しか掲載されません。一方で、そうでない研究成果は、それぞれの分野に特化した雑誌に掲載されます。

論文雑誌・ジャーナルの評価

現在、世界には一万を優に超える論文雑誌が存在し、そのそれぞれがどれほど「良い雑誌」なのかを評価する指標が必要となります。
そしてその一つがインパクトファクターと呼ばれる指標です(最近別の指標を利用した方が良いという考えも主流になりつつあります:後述)。

引用と論文の評価

論文を執筆する際には必ず既に存在する論文を引用します。これは既存研究との差異や関係性を明確にすることで、自身の研究の意義を正しく主張するためです(それをせずに各人が好き勝手に結果を主張してしまうと訳がわからなくなってしまいます)。この引用された数(被引用件数といいます)が多いと「その論文が多くの研究に影響力を与えた」という評価がなされるのです。

インパクトファクターの算出方法

こうした背景で、「ある論文雑誌から発表された論文が平均してどれくらい引用されるのか」を計算することでその雑誌の質を計測する方法が考案されました。これがインパクトファクターです。
ハイインパクトジャーナルの代名詞として知られるCNSにおいては最新のインパクトファクターはCell: 30.41, Nature: 40.137, Science: 38.205となっています。ちなみに、現在インパクトファクターが一番高い雑誌は、CA: A Cancer Journal for Cliniciansで、その値はなんと187.04です。

インパクトファクターの調べ方

ある雑誌のインパクトファクターが知りたい場合、一番手っ取り早いのは「雑誌の名前」+ 「impact factor」でgoogle検索することです。その論文雑誌のウェブページかwikipediaのページがあれば間違いなく書いてあるはずです(ただし、創刊直後などでimpact factorがついていない雑誌も存在します)。さらに過去のデータや、他の指標も含めたもう少し詳細なデータを知りたいときには
Journal Citation Reports (http://jcr.incites.thomsonreuters.com/JCRJournalHomeAction.action)
というサービスと契約している研究教育機関では、論文雑誌名で検索することで、情報にアクセスすることができます。

オープンアクセス(OA)ジャーナルとインパクトファクター

オープンアクセスジャーナルとは、論文の著者が掲載料(数十万円であることが多い)を支払うことで、その論文を誰でも無料で読むことができる形式の論文雑誌です。近年の論文購読料金の高騰と、誰しも研究成果にアクセスできるべきであるという考え方の浸透により、こうした形式の雑誌が増えてきています。こうした雑誌においては誰でも論文の原稿にアクセスすることができることにより、より多くの人に読まれ比較的高いインパクトファクターが付与される場合が多いということがいわれています。

インパクトファクターの功罪

インパクトファクターは一見して評価しにくい論文の質、雑誌の質を数値化することで、分野の外の人でも研究の質を大雑把に把握できるという利便性を提供しましたが、一方で様々な悪影響をもたらしたともいわれています。

数値の信頼性

以下のような理由で、必ずしも現行のインパクトファクターで図られる数値が論文の質を表しているとは言えず、雑誌の評価を不当に歪めているという批判があります。

  1. 引用がどういった文脈で行われているかわからないので(批判されているだけかもしれない)数が多ければいいというものではないかもしれない
  2. 一部の論文が被引用件数を稼ぐことによってその雑誌のインパクトファクターが不当に上がってしまうことが起こりうる
  3. 一定期間に基づいた数値なので、それ以降に行われた引用の実態を反映していないかもしれない
  4. レビュー論文の割合によって数値が補正するべきである
  5. 引用を集めやすい学際的な雑誌か専門の雑誌かで数値が補正されるべきである

このようにインパクトファクターの値はあくまで目安であり、分野によっても大きく異なるため、評価の際には注意が必要です。

インパクトファクター偏重による悪影響

インパクトファクターが高い雑誌に論文が受理される=質の高い研究という考え方が浸透したあまりに、ハイインパクト論文に如何に受理されることを主眼に置いた競争が激化し、学術的に重要である(だが一見して評価されるかわからない)内容よりもそうした雑誌に受理されやすい研究を加速したという側面があるといわれています。また、それが短期的な研究の評価が行われたり論文不正の土壌になったのではないかという批判もあります。

インパクトファクターの目安

インパクトファクターの目安は分野によって大きく異なります。例えば数学の分野では最も権威のある雑誌でも IF= 5 程度ですが、医学の分野ではIF = 80 といったジャーナルも存在します。そうはいっても一つの目安を知ることは有益な場合もあるかもしれないので生命科学分野での例を(あくまで筆者の個人的な主観で)示します。もちろん人によって感覚が違ったり、生命科学の分野の中でも細かい分野ごとに認識が異なる場合もあるのでご了承ください。

IF = 2 以下のジャーナルでは質が高くない論文が多いという印象があります(当然、例外はあります)。質が低い論文というのは例えば、とりあえず結果を論文のフォーマットで報告しただけで、それがサイエンスにどう貢献するのかが説明できていない論文などがあります。主張をサポートするための結果の出し方や論理展開が甘いといったことも良く起こります。

IF = 5 前後のジャーナルでは、サイエンスとして意義のある内容をしっかり報告している論文が多いです。

IF = 10 前後のジャーナルではサイエンスとしての意義に加え、新たな考え方を提示していたり、面白いストーリーが必要になります。このあたりから一流の仕事としてみなされることが多いのではないでしょうか。

IF > 25 それ以上のジャーナル(Nature, Science, Cellなど)では高い独創性や大きな学術界への影響といった内容が必要になります。研究者の中でもこのレベルのジャーナルに通せるのはほんの一握りです。

新しい潮流

こうした状況から、それぞれの論文の評価を異なった指標で評価しようという取り組みが進んできました。altmetrics(オルトメトリクス:代替指標)と呼ばれるそれらの指標には以下のようなものがあります。

  1. Viewed: 論文掲載ウェブページの閲覧数・PDFダウンロード数
  2. Discussed: 科学ブログ・ウィキペディア・Twitter・Facebook・その他ソーシャルメディアでの言及
  3. Saved: Mendeley, CiteULike・その他ソーシャルブックマーク利用者が保存した回数
  4. Cited: 学術出版物における被引用回数(インパクトファクターとは異なり、論文単位で測定)
  5. Recommended: Faculty of 1000などによる推薦など

こうした指標は今や多くの論文雑誌のウェブサイトで公開されており、研究成果のアピールに活用されつつあります。

 

さいごに

ここまでご覧いただきありがとうございました。インパクトファクターには様々な批判もあるものの、一定の評価軸としての価値は維持し続けるのではないでしょうか。研究業績の評価、論文の公開の方法については新たな試行錯誤が始まっています。今後どのようなシステムが出来上がっていくのか楽しみですね。

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