アカゲザルは自然災害の後に新たな社会関係を築く

[紹介論文] Testard, C., Larson, S. M., Watowich, M. M., Kaplinsky, C. H., Bernau, A., Faulder, M., ... & Brent, L. J. (2021). Rhesus macaques build new social connections after a natural disaster. Current Biology, 31(11), 2299-2309.

[論文URL] https://doi.org/10.1016/j.cub.2021.03.029

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興味深かったポイント

ハリケーンによって,アカゲザルの生息地にある資源 (この研究では特に日陰) が乏しくなった。これにより,希少資源をめぐる競争が激しくなったにもかかわらず,アカゲザルは他個体に寛容になるだけでなく,新たに社会的関係を形成したことが明らかとなった。

背景

  • 社会的関係の量と質は,ヒトやその他の哺乳類の罹患率や死亡率を予測し,量が多いことや質が高いことは個体の適応度を向上させる 。
  • しかし,どのように社会的関係が適応度を向上させるかの理解は乏しい。
  • その一つに,社会的緩衝仮説がある。この仮説は,社会的関係を逆境にさらされたときに受けるネガティブな影響への重要な緩衝剤であるとしている。

目的

  • ハリケーンによって深刻な被害を受けたプエルトリコのカヨ・サンティアゴに生息するアカゲザル (Rhesus macaques) の社会的関係が,災害に伴ってどのように変化したのかを検討した。

研究の5つの問い

  1. ハリケーン前よりも親和的な行動に従事する確率が変化したか?
    社会的緩衝仮説と一致して,親和的な行動が増加すると予測
  2. ハリケーンへの社会的反応に個体差はあるか?
    もし,個体差があるのであれば,a) ハリケーン前の社交性,b) 毛づくろい相手の喪失,c) 日陰など新たに不足した資源への凝集によって予測されるか
  3. どのような社会的戦略をとったか?具体的には,社会的関係を結ぶパートナーの数を増やしたのか,既存の関係のつながりを強化したのか,またはその両方をおこなったのか
  4. ハリケーンの後にはどのような相手と社会関係を結ぶか?
    ハリケーンによる物理的困難や潜在的な資源競争に対処するのに最適な,血縁や高順位個体との関係に優先的に投資すると予測
  5. 単純な関連ヒューリスティック (互恵性とトライアド閉鎖性) と空間共有 (近接性) が新しい関係の形成を予測するか?

方法

  • プエルトリコのカヨ・サンティアゴに生息する準放し飼い (semi free-ranging) の6歳以上のオトナのアカゲザルの2群 (KK群: N = 66, Male = 22; V群: N = 93, Male = 49)
    • ハリケーンによって,カヨ・サンティアゴの緑地(≒日陰)が63%減少
    • アカゲザルはハリケーンの直後に2%が死亡し,その後6ヶ月の間で7%が死亡
  • ハリケーン前はKK群を2015年と2017年, V群を2015-2017年に観察し,2017年8月31日が最後の観察となった。ハリケーン後はKK群, V群ともに2017年11月-2018年9月に観察した。
  • ハリケーン後は,10分間隔で群れ全体のスキャンサンプリングをおこない,視界に入る個体の行動とそれにかかわる社会的パートナの同定,2m以内にいるすべての個体を記録。ただし,ハリケーン前の行動観察の方法と異なる部分があるため,結果以降では親和的な行動である毛づくろいと近接について分析。

結果

  • 問1: ハリケーン前よりも親和的な行動に従事する確率が変化したか?
    • Yes. ハリケーンの前よりも,アカゲザルは4倍以上他個体と近接していた。また,毛づくろいがみられる確率も50%上がった。
  • 問2: ハリケーンへの社会的反応に個体差はあるか?
      Yes.
  • では,どのような個体において親和的な行動をとる確率が増えたか?
    • ハリケーン前に親和的な行動が少なかった個体 (社交性が低い) ほど,ハリケーンの後に毛づくろいや近接行動をおこなう確率が高くなった。
    • ハリケーンの後に他者との近接確率が高い個体は,毛づくろいの行動も増加した。
    • しかし,毛づくろい相手の死は,親和的な行動の確率の変化を予測しなかった。
  • 問3: どのような社会的戦略をとったか?
    • より多くの個体を毛づくろい相手としたが,毛づくろい関係が強固になったというわけではなかった。つまり,社会的関係を結ぶパートナーの数を増やした。
  • 問4: ハリケーンの後にはどのような相手と社会関係を結ぶか?
    • 予測と異なり,血縁個体への毛づくろいや低順位個体から高順位個体への毛づくろいは増加しなかった。
    • 一方で,メスはオスに毛づくろいすることが増加し,社交性の低い個体同士での毛づくろいも増加した。
  • 問5: 単純な関連ヒューリスティック (互恵性とトライアド閉鎖性) と空間共有 (近接性) が新しい関係の形成を予測するか?
    • 一部予測と一致して,互恵性とトライアド閉鎖性は,ハリケーン後の社会的関係形成の可能性に対して強い正の効果があった。しかし,特定の個体間で近接する確率は,その個体間の毛づくろい関係を予測しなかった。

考察

  • 今回の結果は,社会的緩衝仮説と一致する。しかし,社会的関係の増加は一様ではなく,ハリケーン前に社会的に孤立していた個体が関係を築くようになった。
    • メスはオスよりも毛づくろいをより多くおこない,オスとの社会関係の結びつきを強めた。いくつかの動物社会において,集団凝集性にメスが貢献していることとも一致
  • アカゲザルは,より多くの相手と繋がるために社会的ネットワークを広げたが,関係性を強固にしたわけではなかった。
    • 「重要な」パートナーとの関係強化に注力するというよりは,社会的寛容と支援をより多くの個体から得て,より広い社会的統合からの利益を受けようとする戦略と一致する。
  • 社会的ネットワークを広げるために,アカゲザルはトライアド閉鎖や互恵的になるという最も容易な方法を採用する傾向にあった。
    • 個体は他者により寛容になり,新規のパートナーや非血縁個体との接触を求めるというパターンは,ヒトでも見られる。必要な時に動因可能な大きなパートナープールの形成で,厳しい状況におかれた際の自分の脆弱性を低減することができる。
  • アカゲザルが他個体の近くに座り,毛づくろいをする確率が高くなったのは,個体が集まる希少な資源へのアクセス交渉の結果かもしれない。このとき,強い社会的関係というのは必ずしも役に立つわけではない。希少な資源へのアクセスポイントを増やすために,血縁以外の個体をパートナー相手として選んだ可能性がある。
  • 今回,攻撃行動については検討できなかったものの,希少な資源の減少にも関わらず,あるいはその結果として,お互いにより寛容になった。親和性の増加は日陰をめぐる競争の反応として,社会的支援を確保する必要性からきている可能性もある。また,新しい社会的関係に投資することは,限られた資源で出会う新規の相手と相互作用する機会が増えたからかもしれない。
    • ただし,特定の個体への近接は毛づくろい関係の形成を予測しなかった。これは,限られた資源 (日陰) で受動的に出現したものではなく,より能動的に毛づくろい相手を選んでいることを示す。

まとめ

  • 人新世 (Anthropocene) において,気候が変化する中で生活することは健康に無数の悪影響を及ぼす可能性がある。今回のような壊滅的な熱帯性暴風雨の頻度と激しさは強まることが予測されており,ますますその予測が困難になっている。
  • 今後は,生息地の大規模な変化に対して,動物がどのように社会的またはその他の方法で適応するのかを研究することは,なぜ種あるいは個人には回復力があるのか,または脆弱であるのかを説明するのに重要であろう。
  • 本研究のカヨ・サンティアゴのアカゲザルは,大規模なハリケーンへの対応として,希少資源をめぐる競争が激しくなったにもかかわらず,他個体に寛容になるだけでなく,新しい社会的関係を形成した。
  • 本研究の知見は,社会的支援が群れを成す霊長類が極端な環境変化に対応するための重要なメカニズムであるという仮説を支持する。

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