ノーベル賞受賞者による、ノーベル賞の取り方(?)

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計算生物学のジャーナルPloS Computational Biologyには10 Simple Rules (https://collections.plos.org/ten-simple-rules)という企画があり、研究者がキャリアの中で直面する様々な問題に対して、一つのテーマにつきノウハウを10個にまとめた記事たちが公開されています。ここでは、その内容のまとめをシェアします。今回は、少しネタに走った(?)回であるRichard J. Roberts(1993年ノーベル生理学・医学賞受賞)による”Ten Simple Rules to Win a Nobel Prize (ノーベル賞を取るための10個の単純なルール)”の内容について紹介します。

尚、元の記事(https://journals.plos.org/ploscompbiol/article?id=10.1371/journal.pcbi.1004084)はクリエイティブコモンズライセンスが適用されており、本記事について著作権上の問題が発生しないことを確認しています。

 

学生も、若い研究者も、年配の研究者でさえも、ノーベル賞を望む気持ちはあからさまなものです。どういうわけか、この待望の名誉がもたらされるべく、科学的経歴を構成することが可能であると考えているようです。ノーベル賞を受賞している私は、受賞の秘訣を知っていて、それがわかれば成功確率が上がるに違いないと思っている人もいるようです。残念ながらご期待には沿えません。道は一つしかありません。ルール1に書くことに尽きますが、まあ他の項目も何らかの役には立つでしょう。役に立たなかったとしても、少しは楽しんでもらえると思います。

 

ルール1:ノーベル賞を目標としてはいけない

願うことも考えることもダメです。できる限りの最良の科学を行うこと、それに尽きます。良い疑問を提唱し、革新的な方法でそれに答え、それらの予期せぬ結果が、自然の予期せぬ側面を明らかにすることを探求するのです。あなたがあなたの研究キャリアで成功しているならば、たくさんの発見をし、とても幸せな人生を過ごすでしょう。運がよければ、あなたは大きな発見をし、1つか2つは賞を獲得するでしょう。しかし、あなたが非常に幸運である場合に限り、ノーベル賞を受賞する可能性が生じるでしょう。捕まえるのは非常に難しいのです。

 

ルール2:あなたの実験が時折失敗しますように

実験が失敗する主な理由は2つあります。よくあるのは、前もって十分に一生懸命考えていないことによって、実験のデザインに失敗したためです。もっとありがちなのは、試薬を混ぜることに十分注意しなかったからです(私はいつも学生に、チューブにちゃんと入れたか?と尋ねるし、近頃は、ちゃんとチューブにラベルをつけたか?と文書を送っています)。時々、あなたは分析を実行するのに十分な注意を払っていません(温度計を逆さまに突っ込んでいませんか?以前そういう医学部生がいました。死にそうになっても、この人には診てもらいたくないリストに名前をひかえてあります)。これらの問題は、実験の設計と実行に常に細心の注意を払うことが、最も簡単な対処法です。それでも失敗する場合は、もう一度やり直してください。しかし、実験が失敗する理由としてより興味深いのは、実験の基になっている公理が間違っているということを、自然があなたに伝えようとしている、というものです。これは、その分野の教義が間違っていることを意味します(教義あるあるです)。私のようにあなたが幸運なら、その教義は大間違いだったことになります。なぜそうなったかを明らかにする実験を計画しましょう。あなたが本当に運がよければ、賞に値するほど十分に大きな何かに出会うでしょう。

 

ルール3:共同研究するのはいいが、相手は一人だけに

共同研究は科学の良いところの多くを具現化するし、面白くします。問題に取り組むために異なる専門知識を組み合わせることは、多くの場合大きな発見の鍵となります。ただし、大きな発見に近づいていると思われる場合は、ノーベル賞のチケットを手に入れられる勝利者は3人に限られることを常に心に留めておいてください。 共同研究者は慎重に選んでください! 真面目な話、今までそういう失敗をした人はいますので、共同研究者として大変素晴らしい人がいても、くれぐれもその人を競合相手にとどめておくように。

 

ルール4:勝率を上げるためには、家族を慎重に選ぶべし?

ノーベル賞受賞者の7人の子供たちが自ら賞を受賞し、4人の夫婦が共同で賞を受賞しました。マリー・キュリーと夫のピエールは1903年に物理学で、娘のアイリーンは夫のフレデリック・ジョリオと1935年に化学賞を受賞しました。カールとゲルティ・コリは1947年に医学賞を受賞し、アルバ・ミルダルとアルフォンソ・ロブレスは1942年に平和賞を受賞しました。ローレンス・ブラッグは1935年に彼の父親、ウィリアムズと共に物理学賞を受賞しました。ロジャー・コーンバーグ(化学賞・2006年)は、父のアーサー(医学賞、1959年)も受賞者です。オーゲ・ボーア(1975年)と父ニールズ(1922年)は共に物理学賞を。他の親子受賞者は、スウェーデンのハンス・フォン・オイラー・チェルピン(化学賞、1929年)とウルフ・フォン・オイラー(医学賞、1970年)、マン・ジークバーン(1924年)とカイ・ジークバーン(1981年)は、どちらも物理学賞です。ブリトン・ジョセフ・ジョン・トムソン(1906年)と彼の息子ジョージ(1937年)は、どちらも物理学賞を受賞しました。ノーベル賞の栄光に輝いた唯一の兄弟ペアは、オランダのヤンとニコラース(1973年、医学賞)のティンバーゲン兄弟で、ヤンは1969年に初めての経済学賞受賞者となりました。

 

最初の受賞者が誕生して以来、113年間で586人のノーベル賞受賞者しかいないのですから、同じ期間に世界の延べ人口は10,000,000,000人以上であることを思えば、これは驚異的な確率です。

このルールはまた、昨年(2014年)ノーベル生理学・医学賞を夫婦が授与したことによって、鮮やかに示されています。

 

ルール5:ノーベル賞受賞者の研究室で働く

多くの受賞者は、このアプローチがもたらすインスピレーションから大きな恩恵を受けています。以前の受賞者と、同じ施設で働いているだけでも役に立つ場合があります。代表的な例では、英国ケンブリッジにある医学研究評議会(MRC)研究所には、化学賞または生理学・医学部門でノーベル賞を受賞したスタッフが9人以上います。そのうちの一人は私の個人的なヒーローであるフレッド・サンガー(化学賞を1958年と1980年の2回受賞)で、一度はタンパク質の配列決定法の発明で、2回目はDNAの配列決定法の開発の功績でした。その間にRNA配列決定法を発明したのですが、3回の受賞はノーベル委員会にとっては多すぎたみたいです。

 

ルール6:ルール5よりもっといいのは、未来の受賞者の研究室で働くこと

ノーベル賞を受賞する発見の一部を担えるかもしれないので、このルールは非常に有益です。戦略としては非常に良いと証明されていますが、その通りになる指導教官を見つけるのは必ずしも容易ではありません。そのような成功をもたらし、ともに栄光を分かち合ってくれる、そんな人です。この戦略の真理は、既に受賞した人の研究室ではなく、あなたと共に再び受賞できるとあなたが考える人の研究室で働くことなのです。受賞歴のあるラボはルール5の条件に当てはまってしまうため、ルール6の効果は証明されるに至っていません。あなたが大きい発見をするのがそういう研究室を去った後だった場合はさらにいいです。100%あなたの手柄ということになるんですから。

 

ルール7:運勢が最高潮の時に最高の実験を計画し実行する

ノーベル賞受賞者への気楽なアンケート結果ですぐにわかったことは、発見に最も必要な要素は、幸運を信じることだということでした。これは一つには、私たちがよく知っていると思っていたことが実は間違いだとわかり、この先の研究を間違った想定に基づいている時に、多くの発見というのはなされるものだということです。しかし、いずれノーベル賞にふさわしいと思われるような、それほどの大きな進歩が可能となる劇的な仮定の変更が起こり得るほど、幸運であると期待するのは、可能性としては低すぎると思われます。

 

ルール8:ノーベル賞を受賞することをめざして人生を計画すべきではない

これは多くの人にとって悲劇的なことになることが明らかとなりました。ノーベル賞が取れそうだという確信を持つにいたり、受賞できた時に備えていろいろと計画を始めた学者を数人知っています。授賞式用に大変控えめな感謝のスピーチ内容を考えたり、マスコミ向けのコメントを用意したり、さらに続けて発見物語を語るために僻地へいくことを計画したり。早朝のストックホルムからの電話を本当の驚きとするためには、あなたは推薦されていたなんて知らなかった、という状態の方がはるかに良いです。何はともあれ、ノーベル賞を完全に忘れて、できる限り最高の科学を行うことに集中してみませんか。このルールを守れないのならば、受賞者があなたのことを推薦しているという話が耳に入って来ることはないでしょう。これは、自分が受賞者になるはずだと思っている人たちの多くが分かっていないことで、そういう人の中には、毎年自分のなした「大発見」と思っている成果についてアピールしつつ発表した論文を送りつけている人もいます。このことから明白なのは、受賞者はあなたのことを推薦なんかしようとしないし、周りの人にもそうしないように言っているであろうことです。深夜の酒場で、何杯か飲んだ後に、どのような会話をするかなんて、想像できないでしょう?

 

ルール9:スウェーデンの科学者には常に親切に

何人かの受賞者は、売るべきでない人にうっかりケンカを売ってしまったために、受賞がずいぶん先延ばしになってしまっています。ケンカを売るべきでない相手は、既にノーベル委員会のメンバーになっている人、もしくはケンカした後にメンバーになった人です。何人かはそれが原因で受賞の機会を永遠に逃したかもしれません。調べればわかるかもしれませんが、誰が候補者だったかは50年後まで非公開ですからね。私の経験から言うと、このルールを守ることは難しくありません。スウェーデン人はとてもいい人たちで、優れた科学者たちで、共同研究がしやすくて、人懐こい飲み友達です。

 

このルールは早くから実践するに越したことはありません。あなたの名前が魔法のように候補のリストに載って、それがトップに達するのを待たなければならない場合、ずっとその状況にいなくてはなりません。ペイトン・ルースは1911年から、1966年の医学賞受賞までずっと待たなくてはなりませんでした。受賞したのは彼の死のわずか4年前のことでした。

 

ルール10:生物学を学ぶ

これには多くの理由があります。第一に、生物学は魅力的で、決して退屈ではなく、まだほとんどのことがわかっていないのにも関わらず、私たちの日常生活に直接影響を与えます。したがって、他の分野と比較して大きな発見をする余地が大きいのです。第二に、生物学は私たちの周りにあり、非常に複雑であり、医学、農業、保全、そしてコンピューター科学などなどの学問分野にまたがっていて、つまり複合的な分野によるアプローチによって、科学は面白いものになるし、新しい分野を創生するのも簡単です。第三に、物理学や化学とは異なり、生物学は進化のおかげで絶えず変化しています。 今日、法則だと思っていたことが、実験をしている間に変わってしまうかもしれません。最後に、生物学的発見を対象としている賞は2つあります。 医学生理学賞と、化学賞です。化学賞は半分の割合で生物学者に授与されています。既にあなたのオッズは50%アップしているのです!

 

最後に

要約すると、ルール1は私が提供できる最善のアドバイスです。あなたができる最高の科学を追求すること以外に、することはありません。マリー・キュリー、ジョン・バーディーン、フレッド・サンガーでさえ、そうしていたからこそ、2度の受賞が可能になったのです。対して、ライナス・ポーリングは、その時代では最も優秀な化学者であったのにも関わらず、2度目の受賞は全然違う分野での働きに対してのものになったのですから(平和賞)。何にしても、もしあなたが既に1度受賞しているのなら、受賞ができる確率は平均よりも高いと考えていいと思います!

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