良い査読をするための10個のルール

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計算生物学のジャーナルPloS Computational Biologyには10 Simple Rules (https://collections.plos.org/ten-simple-rules)という企画があり、研究者がキャリアの中で直面する様々な問題に対して、一つのテーマにつきノウハウを10個にまとめた記事たちが公開されています。ここでは、その内容のまとめをシェアします。今回は、PE Bourne & A Korngreen (2006) “Ten Simple Rules for Reviewers(査読者のための10個のシンプルなルール)”の内容について紹介します。

尚、元の記事(https://journals.plos.org/ploscompbiol/article?id=10.1371/journal.pcbi.0020110)はクリエイティブコモンズライセンスが適用されており、本記事について著作権上の問題が発生しないことを確認しています。

ルール1:要求された時間内にできそうにない場合は査読を引き受けない – ノーと言うことを学ぶ

査読の遅れは著者にとっても、ジャーナルスタッフにとっても好ましくありません。 あなたが査読中の論文を持っていて、査読者から反応がない場合のことを考えてみましょう。論文に対する遅れは好ましくないですし、それはあなたが査読をしている論文の著者にとっても同じことです。それに、論文発表において遅れている査読者をつついたりするのは全く無駄なプロセスです。

 

ルール2:利益相反の回避

査読にはさまざまな形式があります。匿名、公開、およびダブルブラインド、つまり著者にも査読者にも互いが誰か知らない形式です。どのプロセスにしても、それに従い道徳的に行いましょう。匿名性は、科学的な不正行為を覆い隠すことを目的としていません。利益相反の可能性がごくわずかでもある場合は、査読を引き受けないでください。利益相反は、例えば、論文が貧弱で却下されそうでも、あなたの今後の研究に役立ちそうなアイディアを含んでいるとか、あるいは誰かが、あなたの次の研究にスレスレに近い部分を研究している、というような場面で起こります。ほとんどの査読依頼では、最初に抄録を提供し、次に査読規約に同意した後に初めて論文を提供します。利益相反が明らかな場合は、論文を要求しないでください。利益相反があるかないか、微妙な場合は、査読を依頼してきた編集者に相談しましょう。

 

ルール3:著者として満足できると思うレビューを書く

簡潔で情報に乏しいレビューは、あなたを醜く映し出します。よく整理された論理的、具体的な理由で、あなたの批判なり賞賛なりを補強しましょう。論文著者はあなたが誰かを知らないかもしれませんが、編集者は知っています。そして、レビューは校閲され、恐らく出版社の原稿追跡システムによって分析されます。査読者としてのあなたの履歴は雑誌に知られています。編集者によって評価された査読品質と適時性は、恥ずかしくないものであるべきです。多くの雑誌は、論文が受理または却下された後、他の査読者のレビューを互いに提供します。これらのレビューを注意深く読み、次のレビューを書く際の参考にしてください。

 

ルール4:査読者としてのあなたは著者の一部でもあります

改訂が要求されたときは、あなたのコメントはより良い論文へとつながるはずです。極端な場合には、却下になりそうだった論文の新しい知見が、詳細な査読者のコメントに基づく(多くの場合)複数回の改訂によって救済され、非常に引用されるものになることだってあります。あなたはこの論文の成功において、見えないパートナーです。たとえ、論文を却下することになったとしても、あなたは著者を助けるためにそこにいるのだ、ということを覚えておくことは常に有益です。

 

ルール5:査読プロセスを楽しみ学ぼう

ピアレビューは重要なコミュニティサービスであり、あなたは参加するべきです。もっとも、査読をすればするほど、さらに求められることになるでしょう。大して興味のないつまらない論文の査読も頼まれることでしょう。査読者としての役割を果たすことは重要ですが、自分の研究分野に近いか、何かを学ぶことができるような、本当に興味のある論文のみを受け入れてください。査読者として、その論文の内容をよく知らないでおくべきだろうか、と思うかもしれません。わずかに異なる分野からの視点は、論文を改善するのに非常に効果的である場合があります。あなたが論文に持ち込むことができる視点を、編集者に示しましょう(ルール10参照)。 そうすれば、編集者はあなたのレビューの重要度を決めることができます。あなたが論文に興味があろうとなかろうと、編集者はあなたの査読を歓迎しますが、良い査読者としては、彼らの査読時間を賢く使わなければならないのが現実です。

 

ルール6:あなた自身の査読法を完成させよう

これは人によって異なる場合がありますが、査読のことを考える前に、原稿を最初から最後まで慎重に読むことをお勧めします。すると論文の範囲と新規性を完全に理解することができます。それから、あなたが投稿したことのない雑誌ならば、著者のための投稿規定を、特に馴染みのないクラスの雑誌であるなら査読規定をチェックしましょう。これらの幅広い背景から、論文を詳細に分析し、査読結果の要約と詳細なコメントの作成を行うことができます。批判については明確な根拠で正当なものにし、弱点と同様に優れた部分も言及しましょう。著者が見逃した引用(あなた自身の論文ではない)を含めることは、論文を改善するのに、簡単ですが効果的な方法です。優れた査読は、原稿の主要な問題と細かい部分の両方に触れたものです。

 

ルール7:良い査読に値する論文に貴重な時間を費やす

「論文を出せ、さもなくば死(publish-or-perish)」症候群は、編集者が査読者に回すことを防ぎきれないほど、たくさんの貧相な論文が投稿される事態を引き起こしました。貧相な論文にはあまり時間をかけないでください(要約だけでは判断できない場合があります)。しかし、なぜ査読に限られた時間を費やしたかについては、明らかにしておきましょう。貧相な中にも有望な視点があるのならば、却下である理由を明らかにしながらも、なんとかして著者を励ましましょう。

 

ルール8:雑誌が要求する場合は査読プロセスの匿名性を維持する

レビューの中で、我々の論文が引用されているなどと指摘することで、誰が査読をしたかということがあからさまになっていることが良くあります。小規模な科学コミュニティでは匿名性を維持するのは困難です。匿名査読が雑誌の方針である場合は、匿名性を失っていないかを、読み直してよく確認する必要があります。匿名性が雑誌の原則である場合、編集者が許可を与えていない限り、原稿を同僚と共有しないでください。匿名性はむしろ宗教的なルールであり、強く反対する人々もいますが、査読を依頼した雑誌のポリシーには、厳密に準拠してください。

 

ルール9:明確に、簡潔に、中立的に、けれどもきっぱりと記載する

貧相なレビューは、貧相な論文と同じくらいタチが悪いものです(ルール3参照)。編集者と著者に、あなたの指摘がきちんと伝わるようにしましょう。箇条書きは、読みやすく返答も簡単なため良い書き方です。それぞれの点が、どれほど論文の受理に関して重要であるかを示してください。英語に不安がある場合は、ルール2を始めとした規則に抵触しない範囲で、他の人にチェックしてもらいましょう。また、論文の内容に入れ込んでしまっても、あなた自身の意見や仮説を押し付けないように。最後に、編集者に対し、論文に対するあなたの評価を明確に示しましょう。要求されていても、査読者が論文に対する評価を明らかにしないことがよくありますが、傍観的立場は無駄に審査を長引かせます。きちんと評価しましょう。

 

ルール10:「編集者へのコメント」を利用する

ほとんどの雑誌で、著者に知られずに編集者にコメントを送ることができます。これを利用して、論文に対してのあなたの意見と個人的見通しを、簡潔に伝えてください。ですが、レビューそのものと矛盾しないものにしてください。レビューではそのようなことを書いていないのに、「この論文は出版されるべきではない」というようなコメントで徒らに編集者を惑わせないように。コメントでは、匿名性を緩和し、決定の理由を明確にすることができます。例えば、あなたの決定はあなたが査読したその雑誌の他の論文に基づいているかもしれませんが、編集者のみと協議する場でそのことを話すことができます。論文の内容に関してあなた自身の言い分、偏見などを示すのにも良い場所です(ルール5参照)。この方法はあまり活用されてはいませんが、分かれた意見をまとめるのに苦労する編集者にとって、何らかの助けとなり得るものです。

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