歳をとることに対してポジティブな人ほど健康で長生きできる
[紹介論文] Levy, B. (2009) Stereotype Embodiment: A Psychosocial Approach to Agin, Current Directions in Psychological Science, 18(6), 332-336
研究の背景
一般に、年を取ると心身の衰えは避けられないと考えられています。しかし、実際には個々の高齢者の健康状態は様々であり、必ずしも一様に衰えていくわけではありません。このような高齢者の健康状態の違いを、高齢者自身が持つ年齢ステレオタイプの影響によって説明したのが本論文です。
これまでの研究で、自己の加齢に対する考え方が高齢者の長期的な健康状態に影響を与えることがわかっています。例えば、50歳以上の参加者を20年間追跡したアメリカの調査の結果、調査開始の時点で自己の加齢についてポジティブに見ていた人は、ネガティブに見ていた人より、調査期間を通して健康であり、平均7.5年長生きをしました。この傾向は調査開始時の健康状態など、関連要因を統制しても見られました。(Levy et al., 2002a; Levy et al., 2002b)
Stereotype Embodiment Theory
このような研究結果を説明するために、Stereotype Embodiment Theoryという理論が本論文で提唱されています。理論の主要な要素は以下の4つです。
1.ライフスパンを通じて高齢者ステレオタイプが内在化する:子どものころから、物語などを通して高齢者ステレオタイプに触れることで、それが内在化されます。若い頃は、高齢者ステレオタイプは自分に関係のないことなので、ネガティブな高齢者ステレオタイプが抵抗なく内在化されやすいです。
2.高齢者ステレオタイプが意識下でのうちに作動する:年齢ステレオタイプは意識下で活性化され、機能します。
3.高齢者ステレオタイプが自己に関連する:社会保障への加入や若者との関りなどによって、自分が高齢者になったことを意識します。高齢者ステレオタイプが自己概念に組み込まれます。
4. 様々な経路で発現する:このように自己概念となった高齢者ステレオタイプが、心理学的、行動的、生理学的に影響を及ぼします。
論文では、理論を支持するような、様々な実証研究が紹介されています。
例えば、18~49歳の参加者を38年間追跡調査した研究では、調査開始時点でネガティブな高齢者ステレオタイプを持っていた人ほど、調査期間中に心臓疾患になる割合が高かったです。