余暇で楽器を演奏している人は手指を動かす脳領域の活動のコントロールが上手い

[紹介論文] Márquez, G., Keller, M., Lundbye-Jensen, J., Taube, W. Surround Inhibition in the Primary Motor Cortex is Task-specifically Modulated in Non-professional Musicians but not in Healthy Controls During Real Piano Playing(2018) Neuroscience, 373, pp. 106-112

[論文URL] https://www.scopus.com/inward/record.uri?eid=2-s2.0-85041403984&doi=10.1016%2fj.neuroscience.2018.01.017&partnerID=40&md5=ce1982304c0b792e8164c0fe9de9fb53

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精読というより流し読みに近い感じで読んだので細かなところは省きつつ砕けた感じで書き留めます。

イントロ

指の筋肉を動かす指示を出す脳領域は隣り合っていることが分かっています。

そのため、手指を別々に動かすときに、隣の指も一緒に動かないように隣の指担当の領域の活動を抑制する(SI:surround inhibition)ということが行われています。

この働きは指をそれぞれ独立して動かすときに必要ですが、ピアニストのようにいくつもの指を続けて動かすようなタスクがあるときには必要ではなくなります。

利き手を支配する脳領域は反対側の脳領域にくらべSIが顕著であったことから、利き手が非利き手よりも器用なのもこのSIの非対称性によるものではないかと言われています。また、SIは学習によって可塑的に変化する性質があり、運動後も持続するものであると言われています。

短期訓練で実証した例として、人差し指だけを動かした場合、親指と小指の領域ではSIが増加するということが報告されています。※運動後も傾向が持続

一方で同期的に複数の指を動かすタスクにおいてはSIが減少したという報告があります。そのため、プロのミュージシャンでは健常者に比べSIが減少している傾向があると言われている。

以上のことから、指を独立して動かすときと連続して動かすときで、SIの関連性を明らかにする研究が必要であると分かる。

よって本研究では指1つずつのときのSIと、異なる指を続けて使うときのSIを演奏経験の有無と関連付けて比較した。

被験者は9人の楽器演奏経験者と10人の演奏未経験者。(被検筋はFDI,ADM,APBの3つ。※人差し指、小指、親指の筋

楽器経験者の定義としては2年以上週3時間以下の余暇だけで演奏した人。(実際集まったのは7人ピアノ,1名ギター,1名サックスで平均16.3年経験,全員右利き)

実験方法

参加者には右手の親指、人差し指、小指でピアノを80bpmのメトロノームに合わせて演奏してもらう。

①親指でミ♪、人差し指でソ♪、小指でファ♪のどれかをランダムに指示

②親指でミ♪⇒人差し指でソ♪⇒小指でファ♪のループを指示

TMS(経頭蓋磁気刺激)は、人差し指の脳領域を確実に活性化できる刺激強度140%に設定し、隣接する親指と人差し指の領域も確実に活性化できた。

刺激のタイミングは運動中と運動準備中の2種類。運動中刺激はピアノに取り付けたセンサにより、鍵盤が5度沈むと同時にTMSを刺激するシステムを用いた。

運動準備中刺激は、事前に調べたメトロノームと筋電発揮の関係から、筋電発揮の50ms前で刺激した。②条件の時にはどの指でTMSされるかはランダムとした。

結果

・演奏経験の有無に関わらず、①条件の時にどの指の領域も「運動中」に比べ「運動準備中」に他の指の脳領域にSIを強めていた(P<0.05)。

・更に、演奏経験者の「運動準備中」では②に比べ①のSIが全ての指の脳領域において有意に強かった(P<0.05)。未経験者ではこの傾向はなかった。

ディスカッション

本研究の結果から、ミュージシャン群とコントロール群で異なるSIの適応が見られた。

独立して動かす条件では運動中に比べ運動準備中にSIが安静時に比べ、ミュージシャン群は~40%およびコントロール群は~25%に働いていた。一方で運動中はSI値がミュージシャン群で~12%およびコントロール群で~9%程度に減少していた。

以前の研究では運動準備中と運動初期はSIが同程度で、運動終了期はSIが減少すると報告されていた。この研究と矛盾してる気がするが、鍵盤を叩いた時に刺激したんで実際の指への指示は既に達成されていて運動終了期に入ってた可能性があるかなと。実際先行研究で最初の筋活動から40ms後にはSIが減少するって報告されてて本研究ではだいたい35msだったし、うんきっとそうだ。

 

本研究で興味深かった点としては、ミュージシャン群の人たちは運動中と運動準備という違いだけでなく、タスクの難易度でもSIを使い分けていたという点だ。

運動準備中、コントロール群はタスクに関係なく安静時に比べて25%程度のSIが働いていたのに対し、ミュージシャン群は独立条件SI40%⇒ループ条件SI15%となっていた。

よって指の動きの長期的な訓練は、タスクに合わせてSIを使い分けることを可能にすると言えるだろう。先行研究でSIの使い分けの重要性については説かれている。(僕は読んでない)。

重要な点は、先行研究は単純なタスクでSIを測定したものだったことだ。つまり本研究がタスク難易度でSIが異なると報告した初めての試験である。⇐ドヤ顔してそう

SIがタスクに適応するということは、独立した指の動きの際にはSIを強め、連続した動きの時にはSIを弱めるという傾向があるのだろう。

プロのミュージシャンなど極端なケースでは、連続した指の動きをかなり訓練するためSIの減少が慢性的に起こり、手のジストニアなどにつながると思われる。

つまり、学習によってSIを適応させることが可能であり、タスク別に適合も可能である。しかしやりすぎるとSIの使い分けがうまくいかなくなる可能性もあるということだ。

本研究の穴として、ミュージシャン群とコントロール群で注意力に差があったかもしれない点が挙げられる。ミュージシャン群には簡単で注意力を要しなかったかもしれない。※タスクへの注意がMEPに影響を与えることが先行研究で示唆されている

結論

タスク依存でSIが変わるという結果は、SIが機能的要素を有すると説明できる。複数の指を動かすときはSIが減少し、独立して動かすときはSIが増加する。これはタスク訓練のパターンに依存すると考えられる。

また、経験豊富だがプロではないミュージシャン群は先行研究の穴を埋めるのに役立つだろう(ドヤ顔してそう)。プロではないミュージシャン群はタスクによってSIを切り替えていたが、プロのミュージシャン群は常にSIが低くなっているはずである。

本研究はn=19とサンプルが小さいので差異の検討は慎重に行うべきである。

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