糖尿病患者における環境温度と急性心筋梗塞との短期的関連性:時系列研究

[紹介論文] Lam HCY, Chan JCN, Luk AOY, Chan EYY, Goggins WB (2018) Short-term association between ambient temperature and acute myocardial infarction hospitalizations for diabetes mellitus patients: A time series study. PLoS Med 15(7): e1002612. https://doi.org/10.1371/journal.pmed.1002612

[論文URL] http://journals.plos.org/plosmedicine/article?id=10.1371/journal.pmed.1002612

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研究の背景

近年、糖尿病(diabetes mellitus, DM)  に罹患する患者は世界的に増加傾向にあり、日本も例にもれず糖尿病患者数は増加の一途をたどっています。糖尿病は、インスリンというホルモンの不足及び作用低下によって各組織での糖利用が減退し、代謝異常を主とする症状を引き起こす病気です。糖尿病により組織でのグルコース(糖の一種)利用が低下すると、身体は脂肪をエネルギー源として利用するようになり結果としてコレステロールの遊離が亢進するため、粥状動脈硬化症などの多くの症状を呈します。そのため、糖尿病は他の多くの疾患になりやすい身体の状態を作ってしまいます。

一方、病気になりやすくさせる因子には「環境」もあります。高いエネルギーの放射線が観測される環境ではDNA損傷の頻度が高くなり、遺伝子についた傷を修復し逸れるエラーが多くなり、がんなどの発症リスクが高まります。また、心臓疾患や高血圧を患っている人は温度差によって急性心筋梗塞(Acute myocardial infarction, AMI)が誘引されることもあります。

このように、ある疾患に対してリスクを高める要因がいくつも存在する可能性が高いため、それらを1つ1つ探していくことが予防・治療への第一歩となります。

今回のこの研究では全世界的に進んでいる「地球温暖化」に関連する「温度変化」と、患者数が増加傾向にある「糖尿病」を採りあげ、急性心筋梗塞による入院への影響を調査しています。

 

研究方法

日中の平均気温(℃)、日平均相対湿度(%)、日平均日射量(MJ/m2)、日平均風速(km/h)、日降雨量(mm)を香港天文台(HKO)の中央監視局のウェブサイトから入手しています。また、吸入性粉塵(RSP; PM10)(μg/m3)、二酸化硫黄(SO2)(μg/m3)、二酸化窒素(NO2)(μg/m3)、オゾン(O3)(μg/m3)は、香港環境保護局のウェブサイトから同時期に収集され、各スポットで平均化されています。

入院に関する情報ですが、香港の全公立病院で1998年から2011年までに集められた全入院データは香港醫院管理局(HA)から入手しています。HAの集めるデータは、香港の入院記録全体の約83%を占めています。また、AMI(ICD-9=410.00-410.99)の症例を特定する上で、国際疾病分類第9改訂(ICD-9)コードによる退院時の原発性診断が用いられています。

 

研究の結果

調査期間中に53,796件のAMI入院がありました(1日平均入院数= 14.73)。これらの患者のうち30.8%がDM患者、54.7%が寒冷期に入院し、61.7%が男性、48.9%が75歳以上、75.2%が初回入院でした。入院、DM患者、非DM患者の院内死亡率はそれぞれ19.6%、20.5%、19.2%でした。暑い季節の日平均気温と平均気温の中間値(四分位範囲)は、27.80°C(26.10°C-29.10°C)と80.00%(75.00%-85.00%)でした。寒冷期の平均温度と平均気温の中央値(四分位範囲)はそれぞれ19.30℃(16.70℃-21.80℃)と78%(69.00%-85.00%)でした。

◇寒冷期の影響

AMIによる入院数は一般に、温度が下がったときに増加していました。この傾向は、DMおよび非DM患者の双方において約22日間持続しています。DM患者のAMIによる入院は、寒冷期に観察された温度範囲全体で急激かつ直線的に増加しましたが、非DM群の入院は22℃から24℃に低下した場合にのみ直線的に増加しました(図1)。

Figure.1

Figure.1

また、DM患者は、すべてのサブグループにおいて非DM患者よりも低温でより強いリスク増加を示しました(表3)。

Table.3

Table.3

◇温暖期の影響

DM患者の中で、温度とAMIの間のU字型の関連が検出され、約28.8℃での罹患率が最小となりました(図3)。

Figure.3

Figure.3

28.8℃と比べて30.4℃でのDMと非DM群との間のRRR比較cumRRは、1.14(0.97-1.34)であり大きな差異は見られませんでした。寒冷期の結果と同様に、DM患者の入院の相対リスクは、75歳以上のグループを除く非DM患者のそれよりも一般に高い結果となりました(表4)。

Table.4

Table.4

DM群の増加したリスクは、75歳未満の被験者で最も強く、性別と入院の種類が類似しており、75歳未満の被験者(RRR = 1.33 [1.07-1.67])(表4)では、DMと非DM群の間の高温に対する感受性の有意差が観察されています(図4)。

Figure.4

Figure.4

 

まとめ

糖尿病(DM)に罹患した患者は、高気温・低気温双方の環境において急性心筋梗塞(AMI)によるリスクが増加しました。一方、非DM患者においては低気温環境においてAMIによるリスクが増加したものの、高気温環境においてはリスク増加が認められませんでした。
非DM患者におけるリスクの増加はDM患者のそれと比べて小さく、低気温環境におけるDM患者のリスク増加は、すべての非DM群サブグループよりも高い結果となりました。

このように、生活習慣病の代表とも言える糖尿病はわたしたちの健康を様々な面から脅かしています。日々の食生活や運動習慣を見直し、健康管理に努めてみてはいかがでしょうか。

 

このレビュー記事のもとになっている論文について

Copyright: © 2018 Lam et al. This is an open access article distributed under the terms of the Creative Commons Attribution License, which permits unrestricted use, distribution, and reproduction in any medium, provided the original author and source are credited.
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