259年間のかくれんぼ!~3世紀の時を超え125年ぶりに新発見されたマンボウ属の新種「カクレマンボウ Mola tecta」~

[紹介論文] Nyegaard M, Sawai E, Gemmell N, Gillum J, Loneragan NR, Yamanoue Y, Stewart A (2018) Hiding in broad daylight: molecular and morphological data reveal a new ocean sunfish species (Tetraodontiformes: Molidae) that has eluded recognition. Zoological Journal of the Linnean Society, 182: 631-658.

[論文URL] https://academic.oup.com/zoolinnean/article-abstract/182/3/631/3979130?redirectedFrom=fulltext

著者解説
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259年間、人々の目を欺き続けたマンボウがいる。
この259年という数字は、学名の二語名法を世の中に普及した、分類学の父と称されるカール・フォ ン・リンネが出版した1758年の論文から数えて、という意味だ。
前回お話ししたように、学名とは「1種の生物に1つだけ与えられる世界共通の絶対的な名前」である。

動物の分類は、「国際動物命名規約」によって、リンネが1758年に出版した論文「自然の体系(Systema Naturae)第10版」が原点と定められている。
学名の提唱自体はリンネ以前にも行われていたが、生き物を名付けるのに良い方法がまとまらず、18世紀の学名の命名法は混乱していた。
しかし、リンネが提唱した命名法が非常に便利であったため、これを基準にし、それ以前に提 唱された学名はすべて無効として一度リセットをかけたことが過去にあった。
なので、例えば、リンネが1758年に出版した論文以前に発見されていた生物がいたとして、リンネ以後に記載されていなければ、それは現代で再発見されても新種となりうる。

さて、本題に入っていこう。
この論文は結構長いので、すべてを解説することはできない。
よって、いくつかお伝えしたいトピックをピックアップして解説する。

おかあさんといっしょの曲「モラモラマンボウ」でお馴染みのマンボウの学名は、リンネ自身の手に よってTetraodon molaとして記載されたが、現在は紆余曲折を経てMola molaとなった。
これがマンボウ属1番目の種である。

マンボウ属2番目の種、ウシマンボウはRanzaniによって1839年にOrthragoriscus alexandriniとして 記載されたが、長い間マンボウMola molaと同種と勘違いされ、筆者が別の論文Mola alexandriniと して、学名の有効性を2017年12月に復活させた(それまではMola ramsayiとして扱われたこともあった)。

そして、マンボウ属3番目の種・・・これが今回の論文の主役であり、3世紀もの間、人類の目を騙し続けたマンボウだ。
その名を・・・カクレマンボウMola tectaという。
本種は2017年7月19日に完全なる「新種のマンボウ」として全世界に発表された。

マンボウ属の新種として最後に発表された種はPhilippiが1892年に記載したOrthagoriscus eurypterusである(結局この種はマンボウと同種と判断された)。
つまり、カクレマンボウは125年ぶりに発見されたマンボウ属の新種
文字通りの1世紀ぶりの世紀の大発見という訳だ!

カクレマンボウ発見の経緯

カクレマンボウの紹介に入る前に、どうやって発見に至ったのかという歴史的な側面から見ていこう 。

マンボウ属の仲間はお互いによく似ており、ある程度見慣れないと素人目には識別が付かない。
これはマンボウ研究者も同様である。

そのため、マンボウとウシマンボウでさえもごっちゃにされ、「マンボウ型の生き物はとりあえずMola mola」という形でこれまで論文が出され続けてきた(ちゃんと識別している人もいるにはいた)。

しかし、2000年代に入り、形態的に識別が難しかったマンボウ属の分類に、新たな識別法がもたらされる。
それがDNA解析(遺伝解析)だ。
DNA解析には「核DNA」と「ミトコンドリアDNA」があるが、マンボウ属の分子系統解析には伝統的に「ミトコンドリアDNA」が用いられている。

カクレマンボウの存在を最初に示唆したのは、2005年、Bassの研究チームだった。
Bass et al.(2005)は、世界各地から少しずつマンボウ属のDNAサンプルを集め、分子系統解析を行った。
その結果、世界にはマンボウ太平洋群、マンボウ大西洋群、ウシマンボウ太平洋群、ウシマン
ボウ大西洋群の4つの集団が存在すると発表。
このうち、ウシマンボウ大西洋群が後にカクレマンボウであることが明らかにされるが、この時点ではわからなかった(この論文でウシマンボウはMola ramsayiという学名で使われている)。

その後、2009年、私の先輩の研究チームが、Bass et al.(2005)のデータに大幅な追加を行った論文を発表する。
Yoshita et al.(2009)で再解析した結果、Bass et al.(2005)の示唆した4集団には3つの種が含まれるとした。
この時点では学名の提唱は保留して、遺伝的に分かれた3種の学名はひとまず、Mola sp. A(=Bass
et al.(2005)のウシマンボウ太平洋群)、Mola sp. B(=マンボウ太平洋群+マンボウ大西洋群)、Mola sp. C(=ウシマンボウ大西洋群)と仮称した。
何故、学名の提唱を保留にしたのかというと、この時点ではMola sp.C(=後のカクレマンボウ)の形態が全く不明で、過去に提唱された学名の種の形態的特徴と照合できなかったからだ。

私は2007年からマンボウ類の研究をスタートし、2009年に修士論文をまとめる時点で、実はDNA解析されたカクレマンボウの写真を入手し、マンボウやウシマンボウと異なる特徴を1つ見付けていた。
しかし、たった1個体であること、実物の標本を調査していないことから自信がなく、新種として論文化することはしなかった。
今思えば、惜しいことをした気もするが、これで正解だったように感じている。

Yoshita et al.(2009)以後、遺伝的に分かれたマンボウ属3種については、世界的に放置された。
世界中のマンボウ研究者の興味は新手法を用いた生態学的な研究にシフトし、分類は私の研究チーム以外で行われることはなかった。
ある意味、ライバルがいないので良かったが、少し寂しくもあった。

地道に研究を継続していた2013年4月、カクレマンボウ発見に繋がる大きなフラグが立った。
今回紹介する論文の第一著者であるオーストラリアの研究者、マリアンから「オーストラリア・ニュージーランド海域におけるマンボウ類のDNA解析がしたいので、情報が公開されていないYoshita et al.(2009)のDNAデータを見られるようにして欲しい」とのメールが来たのだ。
これがきっかけで、私はマリアンと情報交換するようになった。

2014年5月、マリアンから衝撃的な写真付きのメールが送られてくる。
その写真は修士論文をまとめる時に唯一入手したカクレマンボウの写真の形態とよく似ていた。
DNA解析をしたのか聞いたところ、Mola sp.Cだったとの返事で確信した、この種は新種だと。
メールのやりとりをするに、南半球ではこの種はちょこちょこいるとのこと。
論文を書きたいと申し出るマリアンに、ちゃんと論文にしてくれそうな予感を感じたので、カクレマンボウの新種記載はマリアンに任せると返事を返した。
このやりとりをきっかけに、マリアンと本格的に共同研究を行うことになり、2017年7月19日にようやく論文を発表できた。
マンボウの未記載種(これまで論文に記載された事がない種)はこうして、新種として公表されたのである。

カクレマンボウ公表までの簡単な研究史は以下の図のようになる(※前回の記事は、今回の記事より一歩分類学的に進展した内容になるため、図の学名は少し古い)。

次の章で解説するように、分類学者は新種を発見しても、それを新種と証明するための証拠集めに時間がかかる。
発見時と公表時にタイムラグがあるのはよくある話なのだ。

新種と命名

「新種」とは、リンネが1758年に出版した論文以降、学術論文に記載されていない種のことである。
記載とは、文章や図を用いて、その種の形態的特徴を論文に記すことである。
新種の論文はその種の学名が提唱された最初の論文として、特に重要で「原記載」と呼ばれる。

新種記載をするには、いくつかのステップを踏む必要がある。
①種より大きなグループ、属レベル、もしくは科レベルの原記載論文をすべて集め、過去に記載された学名の種すべてと違うことを示す。
②属レベル、もしくは科レベルの標本を調査し、遺伝的・形態的差異を見付ける。
③新種と思われる標本を博物館に登録し、タイプ標本(その種の世界基準の標本)を指定する。
④出来る限り幅広い地域のサンプルを調べ、分布域を示す。
などなど・・・

新種は他の論文の中で他の種と混同されている場合もある。
しかし、新種として提唱されていなければ、新種の扱いにならないので問題無い。

新種を示すには学名の後にsp. nov.(ラテン語の「species nova」の略で新種を意味する)を付ける。
この時、関連して英名や標準和名を提唱しても良い。
マンボウ類は人気なので、和名があった方が良いだろうと考え、「カクレマンボウ」と命名した。
カクレマンボウは日本に分布しない種なので、和名が必要かと問われると必ずしも必要ではない。
しかし、ニュースで紹介してもらう時に、報道側の心理として、和名が無いより絶対あった方が説明しやすいと考えた。

(画像は実際の本論文からの切り抜き。和名も明記している)

カクレマンボウの由来は、学名のtectaに由来する。
tectaは「隠れる」、「欺く」などの意味があり、この種が約3世紀にわたって発見を回避してきたことにちなんでいる。
カクレマンボウの「カクレ」は、カクレクマノミのような物陰に隠れる性質を意味するのではなく、「分類学者の目を欺き他のマンボウ類に混じって隠れてきた」という意味合いが込められている。
このように、形態が似ていることで他の種に紛れて発見が遅れた種を「隠蔽種」とも呼ぶ。
隠蔽種という呼び名も人間側から見て隠れてきたように感じた故の呼び名である。

公表後、ニュースのコメントを見ると、「別にマンボウは自分で隠れてきた訳じゃないのにこの和名はどうなのか?」という意見がいくつか見られたが、研究を行った私個人の意見を言わせてもらうと、探しても探しても全然見付からず、ようやくその形態を明らかにできたので、ずっと隠れられてきたような感覚があり、この種にふさわしい名前だと思っている。
今話題の科博の特別展「昆虫」の「新種昆虫ネーミングキャンペーン」にも書かれているように、新種の学名は論文を書く人が決めることができる。
和名も同様で、生物の命名は分類学者の特権なのだ。

今まで見付からなかった要因

カクレマンボウが259年間も「かくれんぼ」してきた大きな要因は分布域にある。
カクレマンボウはオーストラリア、ニュージーランド、南アフリカなど南半球からしか存在が確認されていない(過去に1件だけオランダでカクレマンボウのような個体の報告があるが、決定打に欠けるので種の特定は保留とした)。
となると、過去に南半球で記載された種がカクレマンボウでなければ、新種の可能性がグンと上がる。
そもそも南半球は北半球と違ってマンボウ類を獲る漁法自体がほぼ皆無と言っても過言ではない。
それ故、カクレマンボウの標本収集にマリアンは非常に苦労した。
1個体のサンプルが非常に貴重であるため、ストランディング情報が入ると、片道10時間以上車を走らせてサンプルを調べに行ったこともあるという。

マンボウ属の学名は過去に33種ほど提唱されているが、このうち南半球がタイプ産地のものはたった4種しかない。
再検討の結果、これら4種はカクレマンボウではなかった。
また、最終的な結論として、33種すべてカクレマンボウではなかった。
このため、カクレマンボウを新種と判断したのである。

カクレマンボウが今まで259年間もかくれんぼできたのは、マンボウ類を獲る漁法が少ないエリアに分布し、また他のマンボウ属の種と勘違いされてきたことによる。
ニュージーランドの博物館で調査を行ったことがあるのだが、実際、ウシマンボウと同定されていた標本の半分くらいはカクレマンボウだった。
見た目が似ているために小さな形態の違いに博物館の人もずっと気付かなかったのだ。

カクレマンボウの形態

本論文のDNA解析の結果、Yoshita et al.(2009)同様に、マンボウ属は世界に3種という結果になった

マンボウ、ウシマンボウ、カクレマンボウの形態的差異は大型個体では数点違いがある。
細かいところは省いて、外部形態で判断できるカクレマンボウの特徴を4つ挙げよう。

1.眼の上が特徴的に隆起する。
2.体表の鱗が円錐形で、マンボウと違って先端が枝分かれしていない。
3.舵鰭(尾鰭に見える部分)の形状は、中央部が一ヵ所だけ凹む。
4.背鰭・舵鰭・臀鰭の基部にある帯の体の中央部から、舵鰭の中央部に向かって帯が延びる(これが修士論文で発見したマンボウやウシマンボウと異なる特徴)。
あと、カクレマンボウの体色は、他のマンボウ属2種と比べて、少し青みがかっている。

マンボウやウシマンボウの特徴は図を参照して見比べて欲しい。


(画像はwithnewsに提供したものと同じ)

一方、小型個体はマンボウ属3種とも形態が非常によく似ていて形態的な識別が非常に困難であることもわかった。
DNA解析と形態調査を組み合わせて、各種の成長過程を明らかにすることが今後の課題である。

この記事を公表するのは、本論文が公表されてちょうど一年目に当たる、カクレマンボウの1周年記念日だ。
カクレマンボウのすべての歴史はこの論文から始まる。
カクレマンボウは日本では見ることはできないが、南半球に行った時に会う機会があるかもしれない。
是非、カクレマンボウという種がいることを覚えておいて欲しい。

この記事を見て、もっとマンボウについて詳しく知りたいと思われた方は、著書「マンボウのひみつ」(岩波ジュニア新書)も読んでくれると非常に嬉しい(カクレマンボウ自体のことについては書けなかったが、発見に至るまでの道筋は読み取ることができる)。

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