<背景>
スロー地震は普通の地震と異なり,ゆっくりとした破壊伝搬 度を持つ.その性質を再現するために,dilatancy hardening を用いたモデルや高 な滑り 度で 度強化となる摩擦則を用いたモデルなど,複数のモデルが提案 されている.その中でも,これまでの低周波微動の解析結果(Yabe & Ide, 2014, JGR; Yabe et al., 2015, JGR) と定性的に調和するものが断層上の摩擦不均質を用いるモデルである.このモデルでは,塑性的な断層面上に 脆性的な地震性パッチが埋め込まれることで,地震性破壊の伝搬 度を遅くする.先行研究(Ando et al., 2010, 2012; Nakata et al., 2011)では塑性領域の変形則として,滑り 度に線形な法則を用いたが,低周波微動の 潮汐応答性(Yabe et al., 2015, JGR)から示唆される摩擦則は指数的な摩擦則であったため,本研究では 度 状態依存摩擦則を用いて摩擦不均質断層の滑り挙動を調べる.
<手法>
2次元弾性体中の無限線断層上に 度弱化領域と 度強化 領域が交互に規則的に並ぶ断層の滑り挙動を,境界積分要 素法を用いて調べる.断層上における 度弱化領域と 度 強化領域の割合を変化させながら,滑り挙動がどのように 変化するかを系統的に調べる.先行研究(Skarbek et al., 2012; Dublanchet et al., 2013)からこの系はいくつかの 滑り挙動フェーズが現れると期待されるが,スロー地震に 対応すると考えられるそれらの間の遷移的な振る舞いにつ いて詳しく調べる.断層の滑り挙動を特徴づける量として 平均変形 度を定義し,その摩擦不均質依存性を調べる.
<結果>
度強化域の割合が小さく,地震性破壊が伝搬しやすい条 件下では, 度強化領域を含めた断層全体が地震性破壊を 起こす.その一方, 度強化域の割合が大きい条件下では, 地震性破壊は 度弱化域に限定される.この振る舞いは先 行研究と調和的である.さらに,これら2つのフェーズの 間の遷移域ではゆっくりとした変形が卓越し平均変形 度 の小さい滑り挙動となる.特にこの遷移的な滑り挙動 では, 度弱化領域での滑りが 度強化領域の滑りを引き 起こすとともに, 度強化領域における滑りが 度弱化領 域の滑りを再び励起するという複雑な滑り挙動を示す.
<示唆>
沈み込み帯浅部の地震発生帯においては, 度弱化領域の割合が大きく,断層全体で地震性破壊が生じると考 えられる.一方沈み込み帯深部の安定滑り領域においては, 度弱化領域の割合が非常に小さく,地震性破壊は微小な 度弱化領域のみに限られ,地表からはほとんど観測されない安定滑り領域となると期待される.そ の中間に位置する遷移的な領域では,平均変形度の遅いスロー地震が生じると考えられる.Yabe et al. (2014, JGR)で示されたように, 度弱化域の変形と考えられる低周波微動の性質と 度強化域の変形と考 えられるスロースリップの振る舞いには相関が見られる.本モデルの遷移域で見られた 度弱化域と 度強化 域の複雑な相互作用は,そのようなスロー地震の特徴を示していると期待される.