悪に協力することは悪か? 個人主義か分人主義かで結論が異なることをゲーム理論により解明

[紹介論文] Uchida, S., Yamamoto, H., Okada, I. & Sasaki, T. A Theoretical Approach to Norm Ecosystems : Two Adaptive Architectures of Indirect Reciprocity Show Different Paths to the Evolution of Cooperation. Front. Phys. 6, 14 (2018).

[論文URL] https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fphy.2018.00014/full

著者解説
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立正大学経営学部の山本仁志教授が所属する研究プロジェクトECOSOS(Evolving Cooperation and Social Simulation: http://ecosos.isslab.org/ )は、協力社会の進化と社会規範との関連性について、最新の研究成果をまとめ発表した。今回の研究は倫理研究所倫理文化研究センターの内田智士専門研究員、創価大学経営学部の岡田勇准教授、ウィーン大学数学研究科の佐々木達矢研究員との協働により進められたもので、その成果は2018年2月20日にオンライン学術誌Frontiers in Physicsに掲載された。

直接的な見返りが期待できない、見知らぬ人間同士でも安定して協力行動を維持する仕組みは現代社会において極めて重要になりつつある。このためには「情けは人のためならず」といった諺が示すような、協力した個人へと利益が還元される仕組みが存在しなければならない。人間が善悪を判別する機能(規範)は、そのような仕組みの一つとして働いていると考えられ、どのような規範が進化し定着するのかについてゲーム理論を用いた研究がなされてきた。

これまで世界の研究者は二つの方向からこの問題に取り組んできた。一つは数理解析による厳密な解の導出である。しかし、これまでの研究は少数の規範だけが存在するという仮定のもと分析されており、現実の多様な規範が作用しあう複雑な状況に対応できていなかった。他方は、社会シミュレーションを用いた方法であり、研究チームもこれまで、多様な規範が混在する状況を「規範生態系」としてモデル化しシミュレーションをおこなってきた。しかし、規範生態系を厳密に数理解析する方法はこれまで存在せず、詳細な解析法の開発が期待されていた。

今回研究グループは内田研究員を中心に、規範生態系を社会シミュレーションに頼らずに、純粋に数理解析的に扱う方法を開発し、本来6万本以上の絡み合った方程式を解かなければならないところを、512本の方程式に縮減することに成功した。その結果、規範のモデル研究で安定的とされてきた「悪に協力することは悪である」という規範は、社会のメンバーが他者を部分に分解しない「個人主義」の発想に基づいて規範を構築している限りは安定的に存続できるが、他者を部分に分解する「分人主義」の発想に基づいて規範が構築されるような社会では、最終的に絶滅してしまうことが分かった。

「規範生態系」についての一連の研究を率いてきた山本教授によると、今回の成果は協力の進化研究における個人主義という前提の見直しを可能にしたという点で画期的なものであり、従来のモデルによる規範研究の適用範囲を押し広げる可能性がある、としている。

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