この記事の見出し
要約
[背景]寛大な行動(他の人へ良いことをする)は、幸福度を増加させることがわかっている。
[方法]この研究では、4週間にわたって、実験グループにはお金を他の人に使ってもらい、対照グループにはお金を自分に使ってもらった。
[結果]実験グループの参加者は、より寛大な選択をするようになり、幸福度の上昇を見せた。また、実験グループの方が、寛大な選択が側頭頭頂接合部に関与し、寛大な選択は側頭頭頂接合部と腹側線条体の繋がりを調節する。寛大な選択中の腹側線条体の活動は、幸福度の変化に関連していた。線条体の活動のコントロールが寛大さと幸福を結びつける上で基本的な役割を果たしていることが示された。
背景
・経済的視点
寛大な行動はコストがかかるにも関わらず、よく起こるものであり、経済的には説明できないものである。
・心理学的視点
他人にお金を使うことが幸福度の増加を見込めることが示され、寛大な行動はポジティブな感情(warm glow)によって引き起こされるという考えもある。
・脳科学的視点
寛大な行動と幸せは別々に調査されている。他の人へ何かをしてあげることは、側頭頭頂接合部が関連しており、幸せは腹側線条体や眼窩前頭皮質などの報酬に関連する領域に影響を与えるのではないかということが示されている。
・今回の研究
寛大さと幸福を結びつける神経プロセスについてはあまり理解されていない。fMRIを用いて、寛大さと幸福が神経レベルでどのように関係しているかを調査した。
方法
・主観的幸福度を実験前後で測った。
実験1
・被験者は50人(右利き男性11人、25.6±0.7歳)
・各被験者には4週間の間、1週間ごとに25スイスフランク(2,500~3,000円ほど)を渡した。
・実験グループには、他人のためにお金を使うように約束した。(例えば、プレゼントをあげたり、ご飯に連れて行くなど)
・対象グループには、自分のためにお金を使うように約束した。
・毎週の終わりにどのようにお金を使ったか聞いたところ、指示通り使ったと答えた。
実験2
・参加者は、1時間ごとに30スイスフラン受け取った。
・意思決定タスクを実施している間、fMRIを使用して、血中の酸素濃度依存応答を測定した。
・意思決定タスクは、誰にプレゼントをあげたいかを決めるものである(プレゼントをあげないという選択もできる)。その利益とコストは3~25スイスフランクでランダムに調整された。(このプレゼントをあげるという選択を寛大な選択とした)
・あげたい人への親密性の影響を取り除くために、その人にどれくらい興味があるかについてアンケートをとった。
結果
利益とコストの行動への影響
・2つのグループで、相手の利益が大きく、自分のコストが小さい場合に寛大な行動を取る傾向にあった。
寛大な行動の影響
・実験グループは対象グループよりもより寛大な選択をする確率が高かった。また、幸福度も高かった。
・寛大な行動の増加の程度は幸福度の増加の程度とは無関係だった。
寛大であることの脳活動
・寛大な選択を行なっている時、実験グループは対照グループに比べ、左側頭頭頂接合部の活動が活発であった。
寛大な行動をする確率と側頭頭頂接合部と腹側線条体の接続の関係
・実験グループと対照グループは、寛大な行動をする確率と側頭頭頂接合部と腹側線条体の接続において異なる相関関係を示した。実験グループは正の相関、対照グループは負の相関であった。→実験グループでは、領域間の接続は寛大さとともに増加。
腹側線条体の活性化と幸福度
・実験グループは、腹側線条体の活動が高まるほど幸福度が増加したのに対し、対照グループでは、幸福度は減少した。
眼窩前頭皮質と幸福度
・眼窩前頭皮質と幸福度には関連性がないことが明らかになった。
・しかし、眼窩前頭皮質は寛大さと主観的価値を結びつける部位であった。
・実験グループでは、側頭頭頂接合部と眼窩前頭皮質の結合性が接続が増加するほど寛大な選択をするのに対し、対照グループでは低下した。