写真で解説!東北地方「蔵王火山」3.5万年前噴出物のざっくりとした地質学的特徴
[紹介論文] Takebe Y, Ban M (2011) Temporal change of geologic features in the pyroclastic surge dominated deposits of the Komakusadaira pyroclastics in Zao volcano, NE Japan. Int J Geology 5:1–13
[論文URL] http://www.naun.org/multimedia/NAUN/geology/2011.html
これから紹介するのは、その昔、オンラインのオープンジャーナルに投稿した論文ネタです。投稿後、どうもそのジャーナルが活動停止してしまった(笑)ので、論文navi様でもうちょっと有効活用することにしました。
本論分は、東北地方の宮城県・山形県の県境にある「蔵王火山」の噴火活動のうち、約3.5万年前に噴火活動を行なった「駒草平火砕岩(こまくさだいらかさいがん)」の地質(噴火によってもたらされた堆積物)について解説するものです。噴火をもたらしたマグマの話は現在鋭意論文化中なので、ここでは地質だけ紹介します。
駒草平火砕岩の名前は、蔵王山の「駒草平(オレンジでかこったところ)」という地名に由来します。
駒草平は「コマクサ」という高山植物が群生する場所で、Wikipediaにも
大雪山の赤岳と宮城県の蔵王連峰には、「駒草平」という地名がある
と記載されるほどです。
なお、駒草平は御釜火口から東方約1.6kmにあり、将来噴火が発生した際に影響を受ける可能性がある場所でもあります。
火砕岩(かさいがん)とは?
火山活動で放出されたさまざまな大きさの砕屑物が固まってできた岩石を火砕岩といいます。火砕岩はマグマを起源物質としているので火成岩に含められる場合と、降り積もってできるという形成メカニズムに注目して堆積岩に含められる場合があります。
要するに、火口から吹き上げられて、空から降ってきた岩石や火山灰が堆積したものを火砕岩と呼びます。
では、駒草平火砕岩を構成する火砕岩について写真にて紹介しましょう。
この写真は実際に駒草平で観察できるもので、スコリア質の黒い火山弾(スコリアとは黒色の軽石で、玄武岩~安山岩質の火山で見られます)が黄色の火山灰(変質した砂状の細かいスコリア)の中に大量に埋まっています。これらすべてが当時の火口から放出されたマグマの「しぶき・破片」です(これを持ち帰って、室内で分析を行なうと、以下で述べたようなマグマ系の話ができます)。
火山岩石学のベーシックな研究手法で蔵王火山の過去の噴火活動を解明する
よくよく見ると、大型の火山弾は少し潰れているのが特徴です。これは、空中を飛行してきた際には、まだこの「しぶき」が固まっておらず、着地と同時にぐにゃっと潰れてしまうと潰れた形状になります。牛糞状火山弾などとも呼ぶそうですが、その呼び名で話してるのは聞いたことない気がします。
これは別の露頭ですが、側面から見ると以下のような写真になります。
つぶれたスコリアが大量に埋まっていて、間を黄色の火山灰が埋めている感じですよね。ハンマーのサイズは約30cmですので、一個一個が30cmかそれ以上のサイズという、大きな火山弾であることがわかります。
ちなみにスコリアをほとんど含まない層もあります。
この写真、なんだか板状に薄い層が発達していますね。これはスコリア質の凝灰岩で、火砕サージ(ベースサージ)と呼ばれる噴火現象に伴う堆積物だと考えています。
火砕サージ堆積物の場合は,火砕流堆積物に比べて数ミクロン程度の 細かい粒子の割合が少なく,比較的淘汰がよい傾向があります.しかし,空中 から降ってきた降下堆積物よりも,淘汰は悪い傾向があります.火砕サージは 乱流状態の低密度な流れなので,粒子が基底部に集まってきて,地面との間を 跳びはねたり,転がったりしながら堆積します.そのため,堆積物には,下 の層を削り込んだり(斜交層理や斜交ラミナ),一つの層の厚さが一定でなく 変化しているなどの構造がみられます.火砕流堆積物に比べて,1枚の層の厚 さが数cm~数10cmと比較的薄い傾向があります.
火砕流とベースサージの流れの形態と堆積物の違いを詳しく知りたいです。 | 火山学者に聞いてみよう
ベースサージは水の多い環境で発生しやすい噴火現象です。蔵王山は現在も山頂に火口湖(御釜)がありますから、3.5万年前も火口湖があったのかもしれません。
以上のように、駒草平ではこのような火砕岩の層が何枚も卓越しているため、「駒草平火砕岩」と呼ぶのです。
なぜ、3.5万年前の噴出物だと分かったの?
蔵王山の場合、3.5万年より新しい活動の火山灰が山ろくによく保存されており、そちらの研究も行なわれてきました。以下は山ろくで観察される火山灰層(青みがかった暗灰色の部分)で、写真真ん中あたりにある赤褐色のものは川崎スコリアと呼ばれる広域テフラです。
このような火山灰層と火山灰層の間には、古土壌(かつての土壌)や木片などが保存されている場合があり、炭素14年代測定を行なうことで、火山灰の堆積した年代もおおよそ推測できるのです。
なぜ昔のモノの時代がわかるの?(pdf)
蔵王火山の活動史 | 蔵王火山地質図(駒草平を含めた詳しい活動履歴はこちら)
ただ、山頂の噴出物と山ろくの火山灰を対比させるためには、両者の共通点・相違点を探したりと、結構大変です。駒草平火砕岩も「駒草平」にある噴出物はある程度対比ができているのですが、違うところに出ているものは正直あまりわかっていないものもあります。
このあたりはよく質問される(詳細な噴火年代が分かれば、火山活動の長さが推測でき、将来の噴火予測に結びつくため)ので、そこは課題の1つみたいなところです。
駒草平の代表的な路頭「大露頭」
山形大の一部だけで通用するネタでしょうが、駒草平火砕岩の層序をもっとも綺麗に観察できる点が「大露頭(以下の写真)」と呼ばれる場所です。
大露頭には13枚の火砕岩層(通称:下位からA~M層)があり、先に紹介した火砕岩の特徴を見ることができます。ざっくりと言えば、F層より下位には薄い板状の層が発達した堆積物があり、F層より上位にはスコリア質の火山弾を大量に含む層が発達する傾向にあります。
また、F層が最も厚く(写真に写ってる崖を構成するもののほぼ全て!)、最大で10mほどにまで堆積しています(1枚目と2枚目の写真も駒草平で観察できるF層です)。
要するに、ここではF層を境に噴火様式が変わっていることがわかる、のです。
調査の結果、このF層を境にマグマ系も少し変化していることがわかっています。地下のマグマの活動が噴火様式にも影響を与えているらしい、ということで、大切な発見をしたと思っています。
このような研究は私たちの生活にどう役に立つ?
地質を調査することで、火山噴出物の分布・厚さなどが解明されますから、もし将来同規模の噴火が起こったら、どのような影響があるか、と考えることができますね。現在、多くの火山でハザードマップが発行されていますが、その噴火予測は過去の噴火規模などを参考に決められています。
このような火山噴出物を調査することは、火山学の基礎的な知識の累積とともに、私たちの生活そのものを守るためにも役に立つんです。
なお、蔵王山のハザードマップは以下にてダウンロードできます。
この記事では、過去の蔵王山の活動の一例を紹介したもので、将来の活動予測やその影響範囲を示したものではありませんので、防災に関する情報は気象庁や自治体の発表などをご利用ください。
余談
この論文は、筆者が忘れもしない、2011年3月13日に受理の連絡を受けたものです。そう、東日本大震災の2日後!!また、この論文を卒業要件に使ったということで、いろいろ思い入れがあるのですが、オープンジャーナルの運営元にももう少し頑張ってほしかったです(笑)
マグマのほうはもう5回目ぐらいの投稿になるので、ほんと掲載頼みます・・・ってところです。