単観測点での深部低周波微動の震源深さ推定手法

[紹介論文] S. Yabe and S. Ide (2013) Repeating deep tremors on the plate interface beneath Kyushu, southwest Japan. Earth, Planets and Space, 65, 17-23, doi:10.5047/eps.2012.06.001.

[論文URL] https://link.springer.com/article/10.5047%2Feps.2012.06.001

著者解説
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<背景>

西南日本における深部低周波微動の分布は豊後水道から九州に入るところで途切れる.しかし,九州東部の限 定的な地域に気象庁の深部低周波地震が報告されており,Ide (2012)で微動も報告されている.火山地域から は離れた場所であるため,四国から東海にかけての微動と同様にプレート境界で生じるスロー地震のシグナル と考えられるが,震源深さの推定精度が低いためその確証が得られていなかった.

<問題点とその解決法>

低周波微動はシグナルの到来が連続的であるため,普通の地震と異なり P 波や S 波の到達時刻の読み取りが困 難である.そのため,通常の走時を用いた震源決定の適用が難しく,震源決定精度が低いという問題があった. La Rocca et al. (2009)では,地震計アレイの観測データを用いてこの問題を解決する手法を開発した.地震 波形の鉛直成分には P 波と S 波の両方のシグナルが含まれていると期待されるのに対し,水平成分は主に S 波 のシグナルが含まれている.鉛直成分と水平成分のエンベロープ波形の相互相関を計算すると,2つのピークが現れ,両者の時間差は P 波と S 波の到達時間差となることが期待される.一つの時間窓だけではシグナルの小ささゆえに明瞭ではないが,アレイ内で相互相関波形をスタックすることで,P波と S 波の到達時間差を検出可能で,その情報を用いて震源深さを精度よく推定できることを示した.しかし,地震計アレイによる観測は一般的でなく,九州東部のケースでも一つの観測点のみから推定を行う必要がある.そこで本研究では,相互相関波形を地震計アレイ内でスタックするのではなく,震央の近い場所で微動が発生している異なる時間窓でスタックするように手法を改良した.

<結果・示唆>

改良した手法により,九州東部における複数の観測点で微 動の P 波と S 波の到達時間差を検出することに成功した. それらを用いて微動の震源深さを推定したところ,40km 程度と推定された.この深さは先行研究により推定された プレート境界の位置(Yagi & Kikuchi, 2003)と調和的であ る.一方,震央の近いスラブ内地震との深さの差は 20km 程度と通常より大きい.微動の発生する地域には九 州パラオ海嶺が沈み込んでおり,通常の海洋プレートより も厚い地殻を持っている.そのため,プレート境界で発生 する微動とスラブ内地震の距離が離れていると考えられ る.また,九州パラオ海嶺が沈み込んでいる部分のみで微 動が発生していることから,その沈み込みに伴う何らかの プレート境界の環境の変化が限定的な低周波微動活動を 可能にしていると考えられる.

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