深部低周波微動を用いた地震波減衰推定
[紹介論文] S. Yabe, A. S. Baltay, S. Ide, and G. C. Beroza (2014), Seismic wave attenuation determined from tectonic tremor in multiple subduction zones. Bulletin of Seismological Society of America, 104(4), 2043-2059, doi:10.1785/0120140032.
<背景>
地震災害リスク評価を行うために必要な情報の一つに,地震動伝搬の距離減衰式が挙げられる.地震波の伝搬 しやすさ(減衰の強さ)は地域によって異なるため,巨大地震が発生した際に,震源からの距離に応じてどの ように地震波が減衰するかをあらかじめ評価しておくことは被害予想において重要である.また,地震波減衰 の推定は地震のエネルギー推定を正確に行うためにも重要な要素である.深部低周波微動の活動に空間的な不 均質があることが明らかになっており,その不均質性を定量的に表現し地域間比較を行っていくことで,スロ ー地震の震源物理を明らかにする手がかりとなると期待される.微動活動定量化の一つの側面として正確な低 周波微動のエネルギー推定を行うためにも,地震波の減衰の強さを推定する必要がある.
<問題点とその解決法>
地震波の距離減衰式の評価には通常,小〜中規模の 普通の地震を用いる.しかし,西南日本やアメリカ 西岸などの地域では,プレート境界においての通常 の地震活動が非常に低調なため,地震波の距離減衰 式の推定を行うための十分なデータを得ることがで きず,正確な地震災害リスク評価の妨げの一因とな っている.そこで本研究では,Baltay & Beroza (2013)のように,シグナルは小さいながらも活発に 発生している深部低周波微動を用いてプレート境界 で放出された地震波の減衰の強さを推定する.さら に,スラブ内地震の地震波伝搬についても深部低周 波微動と同一の手法で解析を行い,プレート境界で 発生する地震とプレート内で発生する地震で地震波 伝搬の様子が変化するかを調べる.
<結果・示唆>
地震波減衰の強さを震源距離の関数として推定した 結果,距離が遠くなるほど単位距離を地震波が伝播 する際の平均減衰量が小さくなることが明らかにな った.これは,地震波が遠い距離を伝播するほ ど地震波減衰の小さい地殻深部を伝播するため,波線 上を平均した単位距離あたりの減衰の強さは小さくな ると考えられる.さらに,低周波微動とスラブ内地震 の結果を比較すると,スラブ内地震の地震波の方が強 い地震波減衰を受けていた.これは低周波微動 とスラブ内地震の間に横たわる海洋性地殻を地震波が 伝播する間に強い減衰を受けていると考えられる.強 い減衰を持つ薄い層が存在する場合に,観測データの 場合と同様の解析結果が得られることを,理論テスト により確認した.