人は与えることへの幸せに適応するのが遅い
[紹介論文] Ed O’Brien and Samantha Kassirer. People Are Slow to Adapt to the Warm Glow of Giving. Psychological Science 2019, Vol. 30(2) 193–204
要約
[背景]人は繰り返すものに順応するという性質を持っている。この研究では、人が他の人を助けることへの幸せに順応していくかどうか調べた。
[方法]参加者に5日間、お金を自分と他の人に同じアイテムを買うために使ってもらった。また、自分または誰かへの寄付のためにゲームでお金を獲得してもらった。
[結果]繰り返し行うことで、もらう幸せは急激に減少するのに対し、与える幸せは急激には減少しなかった。また、与えることを意識したお金の獲得は、もらうことを意識した場合に比べ、半分のペースでの適応であった。
背景
人は、食べ物を食べたりお金を得たりすると幸せを感じるが、その幸せに慣れていってしまう。(快楽に適応する)
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繰り返すことへの感覚の適応を阻止する方法として、得方を変えるなどが試されてきた。(一定期間を空けるなど)
また、感情や経験が入ると、繰り返すことによる幸せが減少しにくいこともわかっている。
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上記の戦略的方法以外にも人は、他人に何かをしてあげることで幸せになれる。
経済学では、仕事の報酬に注目して作業を行うのではなく、誰かに寄付などをしてあげるつもりで作業を行うと支払いに関係なく一生懸命働くことがわかっており、行為に焦点を合わせると快楽への適応が遅くなるのではないかと考えられる。
また、社会的な関係は構築に時間がかかるため、良い行動を続ける必要があり、そのような行為は持続する必要があると考えられる。
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これらについて考えると、他人に何かを与えたり何かをしてあげる幸せへの適応は遅く、幸せが持続する可能性がある。
実験1
被験者:113人の男女(平均26.15才, 女性47人)
方法
・被験者には、25ドルを渡し、1日5ドルずつ同じ方法、同じ条件で使うように指示した。
・54人には自分のためにお金を使う(カフェで飲み物を買う、銀行口座に入金するなど)ように指示し、59人には誰かのためにお金を使う(寄付など)ように指示した。
・毎晩、お金をどのように使用したか電子メールを利用して報告してもらった。(2日目以降は、同じ行動ができたかどうか)
・また、1日の終わりに「1日を通してどう感じたか?(Day’s-End Happiness)」、「指定の行動を起こした時にどういう気分だったか?(Recalled Happiness)」、「この研究についてどう感じているか?(Study Happiness)」についてアンケートを取った。(7段階)
結果
Day’s-End Happiness, Recalled Happiness, Study Happiness, および全平均について、もらうことを行なった参加者の方が与えることを行なった参加者よりも順応が早かった。(1日目と5日目の幸せについて、対応のあるt検定を行なったところ、もらうことは有意差が見られたが、与えることは有意ではなかった)
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繰り返すことの方法を工夫しなくても繰り返すことに順応しにくいものはあるということ、与えることは順応が遅いことがわかった。
実験2
実験1では、被験者の行動が自由で、例えばお腹が空いている時だったら食べ物を買う幸福感などは強いと考えられ、条件的に理想的ではない。
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実験2ではより制限を設ける。
被験者:502人の男女(平均37.17才, 女性264人)
方法
・被験者には、絶対に成功するパズルゲームを10回プレイしてもらった。
・成功するごとに0.05セントもらえるが、253人には賞金は自分自身に入ること、249人には団体を5つのうちから1つ選択し、寄付することを通知された。
・毎回のゲーム終了後、成功をどのように感じるかのアンケートを取った。(7段階)
・また、すべてのゲーム終了後、パズルの難易度やかかった時間、賞金がどれくらい役に立ちそうかなどのアンケートを取った。
結果
・自分自身が賞金入ることを知らされた参加者でも、寄付のためと知らされた参加者でも、1回目のゲームの成功に比べ、10回目のゲームの成功による幸せは低下していた。(対応のあるt検定でどちらも有意な差が見られた)
・しかし、適応速度は、他人のための幸せの方が有意に遅かった。(約半分のスピード)
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同じ報酬を同じ方法で続けて獲得すると、成功に対する肯定的な反応は鈍くなるが、他人のために成功するときは、その程度はかなり低くなることがわかった。