食酢の主成分「酢酸」が納豆菌の酵素を活性化する ~汎用的な過酸化水素型酸化酵素CYP152A1の開発~

[紹介論文] H. Onoda, O. Shoji, Y. Watanabe (2015) Acetate anion-triggered peroxygenation of non-native substrates by wild-type cytochrome P450s., Dalton Transactions 44, 15316, doi: 10.1039/c5dt00797f.

[論文URL] http://pubs.rsc.org/en/Content/ArticleLanding/2015/DT/C5DT00797F

著者解説
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はじめに

酢(Vineger)は醸造酒を酢酸発酵させて得られる、酸味のある調味料です。

酢の主な構成要素である「酢酸」は、生物が物質を代謝するする上で重要な脂肪酸であり、様々な生体機能に影響を与えます。

昨今、「お酢の力でダイエット」や「優秀すぎる【お酢】に秘められし16の効果!」といったサイトがGoogle検索の上位に表示されるように、酢の健康効果が取りざたされています。

私たちは、納豆の発酵に利用される枯草菌(B. subtilisに含まれる酵素(CYP152A1)を酢酸水溶液中で扱うことで、酵素の機能を拡張できることを発見しました。

この発見によって、オキシドールに含まれる「過酸化水素」を用いて、ポリスチレンの原料である「スチレン」をエポキシ化したり、ナフタレン誘導体の芳香環を水酸化したり、水以外の副生成物を生じない汎用的な物質変換が達成できました。

長鎖脂肪酸特異的なCYP152ペルオキシゲナーゼ

シトクロムP450(CYP)は多くの生物種が持つ代謝酵素で、ヒトの肝臓に発現するCYP3A4のような非特異的モノオキシゲナーゼや、バクテリアが発現するCYP101A1(P450cam)のようなカンファー特異的モノオキシゲナーゼ、カビが発現する脂肪酸特異的モノオキシゲナーゼCYP505A1(P450foxy)のように、CYPは様々な種類の酸化反応を触媒します。

一般的なCYPは酸素分子を利用して基質を酸化しますが、酸素分子の活性化に還元剤(NAD(P)H)を一当量必要とします。還元剤が多くの生成物より高価で有るため、CYPの工業利用の例は多くありませんでした。

ところが、枯草菌由来のCYP152A1は、4電子酸化剤の「酸素」と2電子還元剤の代わりに、2電子酸化剤の「過酸化水素」を効率的に利用できる事が知られており、安価な過酸化水素を用いた物質変換手法としての利用が期待されています。
しかしながら、CYP152A1は「長鎖脂肪酸」以外の基質を酸化できないため、汎用的な物質変換の酵素としての利用が困難であると考えられていました。

 

脂肪酸が促進する酸化活性種の生成機構

なぜ、CYP152A1は脂肪酸の酸化反応を特異的に触媒するのでしょうか。
脂肪酸特異性を説明するために、過酸化水素を用いた酸化活性種の生成機構を紹介します。

基質のカルボキシル基が、ヘム上方のアルギニン(Arg-242)と水素結合を介して固定化されており、過酸化水素の「一般酸塩基触媒」として機能し、酸化活性種の生成を触媒します。

この機構によって、基質となる脂肪酸が存在しない場合は、不安定な酸化活性種の生成を抑制し、過酸化水素による酵素の不活化を防いでいます。

そのため、脂肪酸以外の基質が結合したとしても、過酸化水素を効率的に利用することができず、脂肪酸以外の非天然基質を酸化することはできませんでした。

 

最も短い脂肪酸「酢酸」と「長鎖脂肪酸」の誤認識

CYP152A1を汎用的な触媒として利用するためには、酸化活性種の生成を触媒する基質以外の機構を開発する必要があります。
私達は、長鎖脂肪酸のカルボキシル基を認識するCYP152A1に対して、最も短い脂肪酸である酢酸を加える手法を思いつきました。

酢酸は、長鎖脂肪酸と同様にヘム上方のアルギニンと結合し、酸化活性種の生成を触媒しましたが、酢酸の水酸化生成物は検出されませんでした。

そこで、酢酸と同時にスチレンや1-メトキシナフタレンのような「非天然基質」を添加すると、酢酸が生成した酸化活性種によって、「非天然基質」が酸化される事を確認しました。

特に、スチレンのエポキシ化反応を1分間あたり590回も触媒し、天然の機能である脂肪酸の酸化活性(1分間あたり1400回)と比べて1/2~1/3程度の触媒活性に達しました。

 

CYP152ファミリーに属する酵素群への汎用性

CYP152ファミリー酵素は、脂肪酸を認識するアルギニンを必ず保存するので、CYP152A1だけでなくCYP152B1にも、酢酸を用いた基質特異性拡張システムを適応可能でした。

CYP152A1とCYP152B1は40%以上のアミノ酸相同性を示しますが、立体選択性が異なるスチレンエポキシ化反応を触媒する事も報告しています。

2018年現在、CYP152ファミリーは、シーケンスデータベース(BLAST)上に850種以上も登録されているので、酵素を使い分ける事で、CYP152A1やCYP152B1とは異なる反応を達成できると期待しています。

筆者は、好熱性細菌由来のCYP152N1の物性について別の論文で報告しているので、読んでみてください。

  1. 微生物の酵素が生産するバイオ燃料 ~「バイオガソリン」の生産を目指して~ – 論文ナビ 2018-08-21 at 10:07 pm

    […] 実際、私達の研究室では、CYP152A1やCYP152B1が短い脂肪酸を効率的に酸化できない事を逆手に乗り、炭素数7の脂肪酸(ヘプタン酸)[25]や最も短い脂肪酸(酢酸)[26]存在下で、CYP152酵素を誤作動させ、非天然基質を酸化させるシステムを開発していました。 […]

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