トピックモデルを用いた非負値行列分解で全岩化学組成の系統的変化を検出する話
[紹介論文] Yoshida, K., Kuwatani, T., Hirajima, T., Iwamori, H., & Akaho, S. (2018) Progressive evolution of whole‐rock composition during metamorphism revealed by multivariate statistical analyses. Journal of Metamorphic Geology, 36, 41-54.
[論文URL] https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jmg.12282
【背景】
プレートの沈み込みによって出来る高圧型変成岩は,その沈み込みの過程で起こる様々な変成反応によって物質の吸収・放出を行っている.温度上昇に伴って起こる脱水反応により,種々の流体濃集元素が系外に放出されることは広く認識されているが,全岩化学組成の主要成分がどのような変化をするかは詳細な研究がない.この理由には,岩石の不均質性を踏まえた上での系統的な変化検出が困難であることなどがある.
【手法・結果】
広域変成岩に見られる化学組成の累進的変化を,多変量解析手法により定量的に解析し,変成作用の発展に伴う「ザクロ石成分の増加」を検出した.研究対象としたのは,先行研究で報告されている四国中央部に産する三波川変成帯の基質を成す泥質変成岩の化学組成データ約300点,14元素のデータである.本地域では,先行研究では「全岩化学組成の系統的な変化はない」とされていた.
非負値行列分解(NMF)と呼ばれる手法を適用し,岩石化学組成のバリエーションが4つの端成分でうまく説明可能なことを見いだした.特に,低変成度から後変成度への変化で特徴的に上昇する成分(X2)は,化学量論的にザクロ石成分と類似しており,これは変成作用の過程でザクロ石に類似する成分が全岩中に占める割合が増えていることになる.
このことは,ザクロ石は物理・化学的に非常に安定なため,変成作用中の脱水反応でザクロ石以外の成分がわずかに流体と共に流出する一方で,ザクロ石は全岩中に固相として強く固定されていたことをで説明が出来る.言い方を変えると,ザクロ石以外の成分(例えば長石など)が,高温高圧下で流体に溶け出すことで系外に放出されていたとと考えられる.流体濃集元素のみならず,主要成分でも系統的な変化が検出されたというのは,本研究が初の例となる.
また,熱力学的解析により,この全岩組成変化は全岩の保持可能な水の量を増やしていることがわかった.予察的な話だが,これは「ルシャトリエの原理」のようなものともいえる.岩石の脱水に伴う全岩化学組成の変化が,沈み込み帯深部での脱水作用の条件も変化させているということは,今後沈み込み帯での水循環のモデルを計算する上でも重要な要素となるだろうと思われる.