大潮・小潮が地震の成長率を変える?
[紹介論文] S. Ide, S. Yabe, and Y. Tanaka (2016), Earthquake potential revealed by tidal influence on earthquake size-frequency statistics. Nature Geoscience, 9, 834-837, doi:10.1038/ngeo2796.
<背景>
スロー地震のうち2-8Hzの地震波シグナルである低周波微動は顕著な潮汐応答性を示すことが知られている.特に,低周波微動の発生レートが応力の指数間すであるという定量的な応答関係が見出されている(Beeler et al., 2013; Houston, 2015).低周波微動が断層面上のゆっくりとした滑り(スロースリップ)により励起されると考えると,この指数的な関係は断層の滑り速度が応力の指数に比例するという速度状態依存摩擦則を表していると解釈できる.応力が高い時に多くの微動が発生することから,速度強化的な摩擦則が示唆される.一方,普通の地震の潮汐応答性は地震の発生タイミングと潮汐応力の日毎の最大・最小のタイミングを統計的に比較することで調べられてきた(e.g., Tsuruoka et al., 1995).しかし,一般的に顕著な潮汐応答性は見られず,限定的な状況のみで潮汐応答性が指摘されるのみであった.これは,潮汐による応力変動が~1kPa程度であるのに対し,地震の応力降下量は~3MPaであり,大きな差があるためと考えられている.
<新たな視点>
これまで,普通の地震の潮汐応答性は,潮汐応力が直接地震性パッチを壊すというアイディアに基づいていた.しかし,スロー地震の潮汐応答性は,断層上の速度強化領域が潮汐応力により加減速し,その応力集中が地震性パッチを破壊するという異なる描像を生み出した.特に応力と滑り速度の関係が非線形(指数関数)であるため,わずかでも平均応力が高い状態が長く続けばその影響は地震活動に大きく現れると期待される.これまで普通の地震の潮汐応答性解析では日毎の潮汐応力変動に着目してきたが,本研究では大潮・小潮のようなより長期の変動に地震活動が応答している可能性を検証する.
<結果・示唆>
地震のサイズ分布を表すb値を大潮のタイミングと統計的に比較したところ,応力状態が高い時期ほどb値が小さい(比較的大きい地震が多い)ことが示された.b値は地震が成長する確率と解釈することができるので,応力状態が高い時には大地震が発生しやすいことを示唆する.一方でこの結果は,地震の成長過程はあくまで確率的であり,決定論的な地震発生予測が困難であることも示唆する.