スロー地震のScaled Energy
[紹介論文] S. Ide and S. Yabe (2014), Universality of slow earthquakes in the very low frequency band. Geophysical Research Letters, 41, 2786-2793, doi:10.1002/2014GL059712.
[論文URL] https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/2014GL059712
<背景>
スロー地震のシグナルは周波数帯によって異なる名称で呼ばれる.数週間~数年の時定数を持つ変形は,GNSSや歪計・傾斜計といった測地学的手段で観測され,スロースリップイベント(SSE)と呼ばれる.一方,2-8Hzの帯域の地震波のシグナルは低周波地震(LFE)もしくは低周波微動と呼ばれる.両者の中間の20-200秒程度の帯域の地震波シグナルは超低周波地震(VLFE)と呼ばれる.西南日本の沈み込み帯深部では,低周波微動とSSEは広い領域で発見されているが,VLFEは限られた地域でしか検出されていなかった.このことが,VLFEの存在が限定的であることを示すのか,単にノイズに隠れて見えないだけ(Takeo et al., 2010)かは大きな議論となっており,スロー地震の震源物理を考える上でも大きな問題であった.また,地震のScaled Energyと呼ばれる量(地震波エネルギーと地震モーメントの比)は普通の地震の場合は程度の値でスケール不変であることが知られている.スロー地震の場合は程度との推定がある(Ide et al., 2008)が,その値が普遍的なものかどうか分かっていなかった.
<結果>
低周波微動の発生タイミングに合わせてVLFEの帯域の地震波形をスタックすると,ノイズに埋もれた小さなシグナルがコヒーレントに重なり合うことで検出することができるようになった.その結果,低周波微動の発生している全ての領域でVLFEの波形を検出することに成功し,モーメントテンソルを推定することができた.VLFEのメカニズム解は広く定格逆断層を示しており,プレート境界で発生していることを示す.ただし,地域ごとに微妙に断層面の方向が異なっており,大きくたわむフィリピン海プレートの形状を反映していると考えられる.また,スロー地震のScaled Energyは,西南日本の全ての領域にわたってからの間に収まることが明らかになり,スロー地震のScaled Energyも普通の地震と同様一定であることが分かった.
<示唆>
これまで低周波微動は検出されていたがVLFEが検出されていなかった場所からも広くVLFEが検出されたことにより,スロー地震が低周波から高周波までの広い周波数帯にわたる断層滑り現象である可能性が高まった.低周波微動とVLFEの間の1秒程度の帯域ではスロー地震のシグナルは検出されていないが,この帯域は脈動と呼ばれる特に強いノイズが存在する領域であるため,スロー地震のシグナルが埋れてしまっていると考えられる.