空間変化する深部低周波微動の地震波エネルギーレート
[紹介論文] S. Yabe and S. Ide (2014), Spatial distribution of seismic energy rate of tectonic tremors in subduction zones. Journal of Geophysical Research, 119, 8171-8185, doi:10.1002/2014JB011383.
[論文URL] https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/2014JB011383
<背景・問題点>
沈み込み帯では,普通の地震と異なり長周期の変形が卓越する断層運動が検出されており,スロー地震と呼ば れ る .ス ロ ー 地 震 は 2 1 世 紀 初 頭 に 西 南 日 本 と ア メ リ カ 西 岸 で 発 見 さ れ ,以 後 さ ま ざ ま な 場 所 で 検 出 さ れ て い る . スロー地震のうち,2-8Hz の地震波のシグナルは低周波微動と呼ばれる.低周波微動の活動は,繰り返し間隔や 地震波振幅,潮汐応答性など様々な面で沈み込み帯ごとに変化する.また,同一沈み込み帯内でも走向方向・ 沈み込み方向に変化する.しかし,微動の検出・解析の手法や基準が場所ごとにバラバラであったため,特徴 量の空間変化を定量的に比較することは難しかった.そこで本研究では,西南日本・アメリカ西岸・メキシコ・ チリ南部という4つの沈み込み帯において,統一された手法で低周波微動の検出・解析を行い,その地震波振 幅(=地震波エネルギーレート)の定量的比較を行った.
<結果>
・地震波エネルギーレートの空間不均質 4つの沈み込み帯における地震波エネルギーレートの空間分布が明らかになった.メキシコを除いて,地震波 エネルギーレートは同程度(100-1000 J/s)であった.(メキシコの過大な値は,Maury et al., 2018 によりサイ ト増幅係数の基準とした観測点の問題であることが明らかになった.)その中でも地震波エネルギーレートの値 は空間的に不均質であり,西南日本では測地学的に観測されるスロースリップの滑り分布との大まかな対 応関係が明らかになった.
・微動のサイズ分布 普通の地震のサイズ分布は, べき則(GR 則)に従うこと が知られていたが,低周波微 動の振幅は指数分布に従う ことが提案されていた (Watanabe et al., 2007). 本研究の結果は,この提案を支持した.
・微動活動震源移動との関係
微動活動は主に地震波エネルギーレートの小さい部分 から開始していた.小規模な活動は小さい地震波エネルギーレートの部分のみを破壊するのに対し,地震波エ ネルギーレートの大きい浅部領域が破壊されると大規模な活動に発展することが明らかになった.また,微動 が 10km/日程度の 度で走向方向に移動していく間に,部分的に移動 度が加 される現象(Houston et al., 2011)が知られていたが,この時も地震波エネルギーレートが大きいことが明らかになった.
<示唆>
微動の振幅は断層面上の摩擦強度に関係していると解釈できる.地震波エネルギーレートの大きい部分が破壊 されることにより比較的大きな応力降下と断層滑りが生じ,活動の活発化や移動 度の加 が生じると解釈で きる.さらに地震波エネルギーレートの大きい部分はスロー地震発生域の中で比較的強く固着していると考え られるため,大局的な滑りを表すスロースリップの滑り量もその部分で大きくなると考えられる.このように, 断層面上の摩擦不均質性が微動活動の空間不均質を規定する重要な要素であると考えられる.