脳ダイナミクスの定量化により加齢に伴う脳機能の変化を探る

[紹介論文] T. Ezaki, M. Sakaki, T. Watanabe, N. Masuda (2018) Age-related changes in the ease of dynamical transitions in human brain activity. Human Brain Mapping. DOI:10.1002/hbm.24033 (Advance online publication)

[論文URL] https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/hbm.24033

著者解説
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はじめに

人間の実行機能(複雑な課題を遂行する際に必要な認知制御機能)は年を取るにつれ低下することが知られています。このような複雑な脳の機能は、脳の複数の領域の連携した働きによって可能になっていると信じられています。しかし、加齢に伴った実行機能の低下が脳の活動とどのようにかかわっているかは十分にはわかっていません。

上記のような問題に取り組むためには、複数の脳の領域(ROI: Region Of Interest)からとってきたデータ(図A)をひとまとめにして分析する必要があります。一般にこうした多次元の時系列データを分析するための手法は発展途上にあるのが現状ですが、本研究ではエネルギー地形分析(energy landscape analysis)という手法を用い、脳の活動のダイナミクスをネットワーク全体のレベルで分析することで、脳状態のスイッチング(後述)を定量化しました。

 

手法について

エネルギー地形分析(図)の説明を簡単にします。これより詳しい解説は私のブログ記事に説明しましたのでそちらもご覧ください。また、ご自身の研究でも試しに使ってみたい!という方のために私のウェブサイトで分析用のMATLABプログラムを公開しています。時系列を突っ込めば一連の分析ができるのでそちらもよろしければどうぞ。

この手法では、多次元の時系列データを図Eのような「エネルギー地形の上での状態の動き」として解釈することができます。これによって例えば、エネルギーの谷①から谷②にどれくらいの頻度で移動しているか、谷①の領域にどれくらい状態が滞在しているか、といったことを定量化することができるようになります。本研究では、エネルギーの谷となる二つの状態(=「高い頻度で発生する活動状態」に対応します)の間を脳の活動がどれくらいの効率でスイッチしているかを定量化しました。

 

分かったこと

脳活動のスイッチング効率と、被験者の実行機能スコア(テストの結果から算出しています)の相関を分析したところ、若年成人ではCONという脳の機能ネットワークが実行機能を支えているが、高齢者になるにつれてDMNというネットワークがその機能を代替しているのではないかということが示唆されました。これは加齢に伴って脳の機能がネットワークレベルで変化しているという近年報告されている一連の研究と整合的であり、直接脳ダイナミクスを測定することによって得られたエビデンスとして興味深いものであると考えています。

 

図. エネルギー地形分析. (A)指定した脳の機能ネットワークについてfMRIの活動データを取得する. (B) 活動の値が高ければ+1, 低ければ-1,という二値化を行う. (C) それぞれの活動パターンについて出現頻度を計算する. (D) その出現頻度分布をボルツマン分布でfitする(ボルツマンマシン, 逆イジング問題, Maximum Entropy Model). (E)この(D)の式で得られた”エネルギー”の値をもとにしてエネルギー地形を構成する. (F) それに基づいて定義したダイナミクスを表す指標と行動指標の相関を調べる.

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