ミトコンドリアにタンパク輸送する前に、小胞体を介することでミスを減らす?? (Science 2018年9月14日号掲載論文)
[紹介論文] Hansen, K. G., Aviram, N., ... & Herrmann, J. M. (2018). An ER surface retrieval pathway safeguards the import of mitochondrial membrane proteins in yeast. Science, 361(6407), 1118-1122.
この記事の見出し
結論から言うと、ミトコンドリア内膜構成タンパク質を細胞質で翻訳してミトコンドリアに届ける際に、あえてER表面に迂回させることで、ER表面にあるシャペロンにミスフォールディングを直させていることを示した論文。
ということで今回abstractを全訳するのは、2018年9月14日号Scienceに掲載の「An ER surface retrieval pathway safeguards the import of mitochondrial membrane proteins in yeast. (小胞体表面における回収経路は、酵母におけるミトコンドリア膜タンパク質のインポートに保護的にはたらく。)」という論文で、ドイツUniversity of KaiserslauternのDr. Johannes M. Herrmannの仕事である。
論文の視覚的なイメージにはFig. 4K. Mitochondria can import Oxa1 precursor directly. However, in vivo, a fraction of Oxa1 associates with the ER surface.を見るとよいと思いますので、そちらも参考に。
Abstract
The majority of organellar proteins are translated on cytosolic ribosomes and must be sorted correctly to function. Targeting routes have been identified for organelles such as peroxisomes and the endoplasmic reticulum (ER). However, little is known about the initial steps of targeting of mitochondrial proteins. In this study, we used a genome-wide screen in yeast and identified factors critical for the intracellular sorting of the mitochondrial inner membrane protein Oxa1. The screen uncovered an unexpected path, termed ER-SURF, for targeting of mitochondrial membrane proteins. This pathway retrieves mitochondrial proteins from the ER surface and reroutes them to mitochondria with the aid of the ER-localized chaperone Djp1. Hence, cells use the expanse of the ER surfaces as a fail-safe to maximize productive mitochondrial protein targeting.
私訳と勝手な注釈。オルガネラタンパク質の大部分は、細胞質のリボソーム上で翻訳され、正しく機能するように仕分けされなければならない。ペルオキシソームおよび小胞体(ER)のようなオルガネラについては 標的化の経路が同定されている。 しかしながら、ミトコンドリアタンパク質の標的化の初期段階についてはほとんど知られていない。 この論文では、酵母でゲノムワイドスクリーニングを行い、ミトコンドリア内膜タンパク質Oxa1が細胞内で仕分けされるために、クリティカルな役割をになう因子を同定した。 ミトコンドリア膜タンパク質を標的化するために、予想もしなかった経路がスクリーニングに現れ、著者らはこれをER-SURFと名付けた[*由来はER surface–mediated protein targetingから]。この経路では、ER表面からミトコンドリアタンパク質が回収され、ERに局在するシャペロンDjp1の手当を介した後、ミトコンドリアに目標を切り替えて、それらを標的化する。 したがって、細胞は最大限の効率で健常なミトコンドリアタンパク質を標的化するための、フェイルセーフ[*何か不具合が発生したときに、自動的に正しい状態に移行させる設計のこと]としてER表面の広がりを利用していることが明らかとなった。
ミトコンドリアを生合成するにあたって、ミトコンドリアのタンパク質がどのようにして細胞質から運ばれるのか、という経路を明らかにした論文。タンパク質を細胞質で翻訳して、わざわざ目的地のミトコンドリアではなく、ERに迂回するという発想には驚いた。しかも、この論文が単に輸送経路を明らかにしただけのものだと思って読んでいると、ミトコンドリアの品質管理にも関連しているというのだから面白い。今まで全く異なる細胞小器官だと思っていたミトコンドリアとERが、タンパク標的化という場面においては協調してはたらいているのである。ほんとうに生命とはよく出来ているものだ。
ここでひとつ疑問に思ったのは、これほど素晴らしい機構が存在していることが明らかになった、でもそれならミトコンドリア以外のタンパク質に関してもそういう機構があっていいのでは?ということである。何かミトコンドリアだけを優先して保護する意義があったのか、他のタンパク質に関してもまだ見つかっていないだけで存在するのか、この論文から知るところではないが、今後の研究にも注目したいと思った。