Reverse Electron Transfer : RETから見るミトコンドリア電子伝達系(Cell Metabolism2016年4月12日号掲載論文)

[紹介論文] Scialò, F., Sriram, A., ... & Murphy, M. P. (2016). Mitochondrial ROS produced via reverse electron transport extend animal lifespan. Cell metabolism, 23(4), 725-734.

[論文URL] https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1550413116301127

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結論から言うと、逆電子輸送をしてやるとROSがあがるけれど寿命が延びたという論文。

ということで今回abstractを全訳するのは、2016年4月12日号のCell Metabolismに掲載された「Mitochondrial ROS Produced via Reverse Electron Transport Extend Animal Lifespan.(逆電子輸送により産生されたミトコンドリアROSはショウジョウバエの寿命を延長する。)」で、英国ニューカッスル大学Institute for Cell and Molecular BiosciencesのDr. Alberto Sanzラボからの論文。

論文の視覚的なイメージにはgraphical abstractを見るとよいと思いますので、そちらも参考に。

Abstract

Increased production of reactive oxygen species (ROS) has long been considered a cause of aging. However, recent studies have implicated ROS as essential secondary messengers. Here we show that the site of ROS production significantly contributes to their apparent dual nature. We report that ROS increase with age as mitochondrial function deteriorates. However, we also demonstrate that increasing ROS production specifically through respiratory complex I reverse electron transport extends Drosophila lifespan. Reverse electron transport rescued pathogenesis induced by severe oxidative stress, highlighting the importance of the site of ROS production in signaling. Furthermore, preventing ubiquinone reduction, through knockdown of PINK1, shortens lifespan and accelerates aging; phenotypes that are rescued by increasing reverse electron transport. These results illustrate that the source of a ROS signal is vital in determining its effects on cellular physiology and establish that manipulation of ubiquinone redox state is a valid strategy to delay aging.

以下私訳と勝手な注釈。 活性酸素種(ROS)の生産の増加は長い間、老化の原因と考えられてきた。しかし最近の研究では、ROSが生体内に必須の二次メッセンジャーであることが示唆されている。この論文では、ROSが生産される場所[*つまりどこからROSが来るかってこと]が、ROSが2つの性質を持つように見える謎を解明するための手がかりになることが示された。まず、ミトコンドリア機能が低下するにつれてROSが年齢と共に増加することを示した。しかし、著者らは同時に、呼吸複合体I特異的な逆電子輸送[*呼吸鎖複合体cⅡによって過剰に還元された(電子をもらった)り、cⅢやcⅣの障害で電子の流れが滞っているとき、cⅠはCoQに電子を戻す(これをreverse electron transfer:RETという)ことがある。このときにROSができてしまう。今回の系では、cⅠをバイパスできるNADH脱水素酵素のNDI1によって、RETを引き起こした。]を介してROS産生を増加させると、ショウジョウバエの寿命が延びることを実証する。逆電子輸送は、重度の酸化ストレスによって誘発された表現型をレスキューし、シグナル伝達において、「ROSがどこで産生されるか?」ということの重要性を強調した。さらに、PINK1のノックダウンによるCoQの減少の阻害が寿命を短縮し老化を加速させるという表現型も逆電子輸送の増加によってレスキューされた。これらの結果は、「ROSシグナルの供給源がどこなのか?」ということが、細胞生理学的なROSの影響を決定する上で不可欠であり、CoQの酸化還元状態を操作することが、老化を遅延させる有効な戦略であることを立証した。

前回の記事では、何も考えずに抗酸化剤治療を行うと、ROSが蓄積することによって引き起こる様々な補償反応が起きなくなってしまい、ミトコンドリア病の治療にかえって悪影響になるという論文を紹介した。[*ちなみに前回の記事で登場したAOXはCoQから直接O2に電子を受け渡すことによって、呼吸鎖複合体IIIおよびIVをバイパスする代替酸化酵素。今回の論文で登場した代替酸化酵素NDI1との違いに注意。]

今回の論文では、悪者だと思っていたROSをあえて増加させることで寿命が延びることが示された。つまり、単にROSを抑えることに固執するのではなく、呼吸鎖複合体の電子伝達の流れを考えて逆電子輸送することで、ROSが増加してもなお表現型が回復することを示している。

ちなみにROSシグナリングのおさらいには以下のレビューも参考にされたい。
Yun, J., & Finkel, T. (2014). Mitohormesis. Cell metabolism, 19(5), 757-766.

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