2017年8月22日、食生活の偏りからマンボウの稚魚に似た持病の尿路結石が大きくなり過ぎた ため、私は入院していた。
「背中に穴を開ける」という大手術後の経過をみていたこの日、私の人生初の本が出版された 。
本屋に並ぶ完成された自分の本を妄想して、どんな人が買ってくれるだろうかと笑みを浮かべる私の (。╹ω╹。)ㄘんㄘんは管と繋がっていた・・・
あれから一年。
辛い入院生活が脳裏に甦る今日。
マンボウ本一周年を記念して、自ら自分の本の見所を解説しよう!
マンボウは水族館で人気の高い魚類である。
しかし、研究が難しいために、その生態の多くは謎に包まれている。
実際水族館職員も試行錯誤しながらマンボウを飼育している。
マンボウ研究が難しい最大の要因はその「巨大さ」である。
マンボウは非常に重くなるために、採集、運搬、保存がほぼできないため、データを取るのは フィールド重視になってしまう。
マンボウは食べられるが水産重要種ではなく、巨大になるがそこまで希少種でもない。
この微妙なポジションにハマってしまったために、興味がある研究者はいたものの、がっつりマンボウに手を染める研究者はこれまで現れなかった。
故に、マンボウの研究について、どこまでがわかっていて、どこからがわかっていないのか、という総合的な研究の歴史をまとめることができる人がいなかった。
当然ながらアマゾンでいくら探してもマンボウの本は創作もの以外に見付からなかった・・・
そこで企画されたのが本書「マンボウのひみつ」である。
中学生以上をターゲットにして企画された本書は「マンボウの教科書」ともいうべき、優しくマニアックな内容になっている。
出版社は歴史ある老舗の岩波書店。
岩波書店の出版企画基準は他の出版社より厳しいため、出版できること自体非常に価値がある。
本の内容の科学的信頼性の高さはお墨付きだ。
しかしながら、販売戦略的に岩波書店の本は大型書店しか並ばない傾向があるため、是非この本を広く周知して多くの人に読んで欲しい。
何故なら私は「売り上げ一万部」を目指している。
現在、売り上げ7000部は達成しているので、あと3000部・・・
全国にはあと3000人くらい余裕でマンボウに興味を持つ人はいるはずだ。
価格は税込み1080円!
この価格で「200ページまるっとマンボウについてしか書かれていない」。
人生何が起きるかわからない、さあ今すぐこの本をポチっと購入するのだ。
何故今すぐこの本を購入すると良いのか?
その秘密は「本の帯」に隠されている。
本の帯を書いてくれたのは魚類界で知らない人はいない、あの「さかなクン」だ。
彼は過密なスケジュールの中で、通常なら断るはずの依頼を「マンボウが好きだから」だからという理由で引き受けてくれた。
この本には私だけでなく、皆のマンボウ愛がぎゅっと詰まっている。
しかし、この本の帯は発売から一年限定。
一年が過ぎて重版した場合、本の帯は永遠に失われてしまう・・・
だから遠慮しないで、気になったら今すぐポチっと購入して欲しい。
商売面がついつい濃くなってしまったが、本書のコンテンツに入っていこう。
本書は全7章で構成され、私が11年もの間、頭に詰め込んできたマンボウに関する分類学(1~3章)、生態学(4~5章)、民俗学(6~7章)の知識がコンパクトにまとめられている。
各章各節の目次・・・
Ⅰ 体のつくりを徹底解剖
1 マンボウが魚であることの証明/2 マンボウのかたち/3 マンボウの解剖(内部形態)
トピック 1 魚の絵や写真はなぜ左向き?/2 魚の模様と方向/3 魚の計測/4 どっちが雄でどっちが雌?
Ⅱ 化石もあるマンボウの仲間
1 「マンボウの何が知りたい?」アンケート/2 種と分類/3 和名と学名/4 現生種と化石種/5 現在も存在する種/6 現在は存在しない種/7 マンボウはフグの仲間/8 フグはどうやってマンボウに進化した?
トピック 5 沖縄にいる赤いマンボウとは?
Ⅲ ウシマンボウの謎
1 ずっとマンボウが好きだった/2 分類の世界的基準/3 マンボウ研究は難しい/4 広島大学初代マンボウ研究者の時代/5 二代目の時代/6 三代目の時代
トピック 6 生き残った個体
Ⅳ バイオロギングが暴く生態の謎
1 可能性のツール「バイオロギング」/2 疑問を持つことから研究は始まる/3 浮力はどこから得ているのか?/4 尾鰭なしでどうやって泳いでいるのか?/5 「のろまなマンボウ」は本当か?/6 東日本大震災に負けない/7 バイオロギングが解き明かした謎/8 昼寝の謎/9 回遊の謎
トピック 7 分類屋vs.生態屋/8 魚も寝る
Ⅴ みんな気になる生態の最新情報
1 天敵・捕食者/2 摂餌・食性/3 寄生と共生/4 分布域/5 成長過程/6 成熟・産卵/7 視野・視力/8 重さ・長さ
トピック 9 鰓に入り込むコバンザメ
Ⅵ マンボウと人がつむいできた歴史
1 マンボウ塚/2 人類最古のマンボウの記述と絵/3 学名の語源/4 日本最古の記述と絵/5 「マンボウ」という名が全国普及した理由/6 和名の語源と命名者/7 水族館の挑戦/8 変わりゆくイメージ/9 絶滅危惧種指定/10 食材としての歴史と可食部位/11 食卓のマンボウ/12 毒はあるのか? 薬効は?/13 漁獲方法と数え方
トピック 10 マンボウの地方名/11 町のシンボル
Ⅶ マンボウの民俗今昔−伝承から都市伝説まで
1 夜に光り輝く?/2 禁忌/3 大漁祈願/4 魚をいやす海の医者/5 おぼれた人を助ける/6 死ぬ瞬間に目を閉じる/7 切り身は一晩放置すると水になって消える/8 死因にまつわる都市伝説/9 三億個産み生き残るのは二匹/10 ライフル銃でも貫通しない?−皮膚は弱いのか?
トピック 12 マンボウを研究するには?
目次で気になった方はリンク先で一部本の内容を閲覧することができるぞ!
まずは「分類学」の内容から。
「マンボウ」は1種しかいないと思っている人はたぶん人類の90%くらいにのぼる。
しかし、実際には他にもマンボウの仲間が存在する。
が、実は世界にどれだけのマンボウの仲間がいるのか種数はわかっていない。
マンボウの近縁種はパッと見の外観が似ているために、世界中の人々が種を混同しているという大きな問題が発生している。
種の分類は生物学の基本中の基本だ。
種が混じった状態で生態を研究するのは非常によろしくない!
私はこの問題を世界中のマンボウ研究者に知らせるため、紆余曲折あったものの、10年以上マンボウ研究一筋でやってきて、一時期無職になった・・・
★1章は端的に説明すると、内容は「マンボウの解剖図鑑」だ。
論文に載っていない写真もほぼフルカラーでふんだんに使って解説した非常に豪華なページになっている。
ちゃんと魚類解剖図鑑で用いられている用語や図説をマンボウバージョンにしたので、この1章だけでマンボウの体の構造をそのままの意味で骨の髄まで学ぶことができる。
編集者にマンボウの内臓をフルカラーで載せるのはどうだろうかと止められかけたのだが、むしろフルカラーで載せることで、他の出版物では取り扱われない科学的根拠のある解説ができると押し切った。
本書のレビューを見ていると、1章は淡々と体のあちこちが載っているだけでつまんなーいというコメントを多数みかけたが、マンボウの体の構造は一般的な魚類と大きく異なり、その道を極めた人でしかわからない。
実際、他の魚にはないマンボウ特有の謎の体のパーツもある。
水族館職員の人も分かっていない人が多い。
何度も言うが、「マンボウの解剖」をここまで詳しく載せている本は他にない。
これを見るだけのために本書を買っても損はないと自信を持って言いたい。
★2章は端的に説明すると、内容は「マンボウの種類図鑑」だ。
マンボウの仲間には既に滅びた化石種がいることは一般的には知られていない。
化石種の中では、世界でも日本でしか見付かっていない(しかも1個体だけ)チチブクサビフグという種がいる。
過去から現在まで「種」と認められたマンボウの仲間の全種を短的に解説している。
一方、魚類分類学で重要な基本的なポイントもやさしく解説している。
誤同定や種の混同でマンボウの分類が大混乱している現在、この本ではマンボウ属の学名についてかなり慎重に扱っている旨を記している。
★3章は端的に説明すると、内容は「ウシマンボウ発見伝」だ。
日本のマンボウ属にはこれまで「マンボウ」1種しかいないと100年以上考えらてきた。
しかし、私の研究チームの15年以上におよぶ研究の成果により、マンボウの他にウシマンボウも出現していたことがわかった。
このウシマンボウを発見した経緯から和名を名付けるまで、さらにマンボウと遺伝的・形態的・生態的にどう違うのかを詳しく解説している。
私の研究のメインの章であり、マンボウ研究がいかに難しいかを理解して頂ける章になっている。
ウシマンボウ発見の裏側には、結果だけの論文では知ることのできない、巨大生物に果敢に挑んだ20代前半の大学院生3人の研究列伝が刻まれている。
本書のレビューで一番面白いとコメントが付いている章だ。
実を言うと、本書に収録している内容は2017年5月までの最新情報で、その後、2017年下半期に我々の研究チームの成果が実り、より進展した内容の論文が発表できたので、たった1年しか経っていないのに既に知見が古くなってしまった。
しかし、マンボウ属の学名が未確定だった時代の最後の出版物となるので、そういう意味ではこの本は非常に価値があるものと考えている。
続いて、「生態学」の内容だ。
上述したが、これまで「マンボウ」として報告されてきた種はあまり信頼できない。
過去の文献にはウシマンボウが混じっていたりする可能性があるため、「マンボウの生態」として紹介する内容は、本書では基本的に「属レベル」として扱っている。
マンボウ各種の生態はもう一度研究し直す必要があると考えているため、生態に関する知見は敢えて少なめにした。
★4章は端的に説明すると、内容は「生物物理学で挑んだ素朴な疑問」だ。
マンボウは尾鰭が無いのにどうやって泳いでいるのか?
浮き袋が無いのにどうやって浮力を得ているのか?
実際の遊泳速度は速いのか遅いのか?
という、マンボウを少し詳しく知る人なら一度は疑問を浮かべる内容に関して、知人の研究者が挑んだバイオロギングという研究手法とともに紹介する。
バイオロギングとは、生き物の体に遊泳速度や水深や温度などを計測できる記録計を装着して自然に帰し、生き物自身に自分の生活している環境データを取って来てもらう手法だ。
生き物にビデオを装着し、動画を撮って来てもらう、というとイメージしやすいだろうか。
マンボウは大人しくて体が大きいため、生態そのものだけでなく、新しいメカの性能を試すにはうってつけの材料として、世界中の研究者が注目している。
その研究成果を一部抜粋して紹介する。
★5章は端的に説明すると、内容は「これまで報告されたマンボウの生態の総論」だ。
ここではバイオロギング以外の手法で報告された生態研究の内容を幅広く紹介している。
おそらく多くの人がマンボウについて知りたい内容は本章と思われるが、本書では属レベルとして扱ったため、短くまとめるにとどめた。
本章ではマンボウの都市伝説と関連する実際の科学的知見についても若干触れている。
例えば、「マンボウは3億個の卵を一度に産むが、生き残るのはたった2匹」という知見である。
実を言うと、私もマンボウは3億個の卵を「産む」ものと思っていたが、マンボウの研究を極めていくうちに、これは真実ではないことを突き止めてしまった。
オリジナルの論文では、「マンボウは3億個の卵を卵巣の中に持っていた」としか書かれていない。
つまり、この知見が伝わっていく中で、伝言ゲーム→連想ゲームとなり、「卵を持っている」=「卵を産む」と解釈を間違えられた結果こうなったのだろう。
また、生き残りに関してはオリジナルの文献には全く記述が無い。
そもそも論文の中でそんなことが書かれている文献を見たことが無い。
となれば、これは誰かが適当に言ったことが大衆化されたものであろうと推測される。
海がマンボウだらけになっていないことと合わせて語られるので合理的な説であるが、科学的ではない。
マンボウの自然下での生き残りに関する知見は皆無である。
という感じで、マンボウの天敵、餌、成長、成熟、視力、限界サイズなどについて解説している。
最後は、「民俗学」の内容だ。
こちらで言うマンボウも「属レベル」である。
マンボウと人類が関わって来た歴史を私が調べた最古から現代に向かって解説している。
調べてみると、想像以上にマンボウと人類との歴史は古く、長い。
その過程では当然ながら、様々な噂が付きまとう。
今では消えてしまったものから最近発生したもので、幅広いマンボウの噂を収集して科学的に実際どうなのかについても検証した。
民俗学としているが、歴史学的側面の方が大きいかもしれない。
★6章は端的に説明すると、内容は「マンボウと人類の歴史」だ。
マンボウと人類の歴史は古く、最も古い文献は紀元後77年にまで遡る。
2018年の現代から1941年前の話だ。
マンボウの研究者は世界各地に散らばっているが、ここまで遡ってマンボウの知見を調べた現代人は私の研究チーム以外にいない。
何故なら、1941年も昔の古文献はラテン語やギリシャ語で書かれている。
しかし、解読してみると、そこには古代人がマンボウをどういう風に扱っていたのかが描かれていた。
本記事のタイトルに「200年ぶりのマンボウ本」と書いた由来はこの章にある。
実は江戸時代に当時のマンボウの知見を総合的に収集した私みたいな物好きな研究者がいた。
正確には192年前であるが、切りが悪いので大きく切って200年ぶりとしたのであるが・・・2世紀ぶりであることは変わらないだろう。
学名の由来、和名の由来、「マンボウ」という名前の由来など生物的ではない歴史的な内容まで追求した。
マンボウと人類の関わり合いの中には「食」も含まれている。
マンボウには毒は無いのか?
マンボウは体のどこが食べられるのか?
また、水族館ではいつから飼育されるようになったのかという歴史にも踏み込んだ。
水族館でマンボウを見る目が少し変わるかもしれない。
★最終章である7章は端的に説明すると、内容は「マンボウの噂」だ。
我々、人類との歴史が古いマンボウとの間には、古今東西さまざまな噂が立っては消えてきた。
最も古い知見には「月」との関連があり、その名残は今もヨーロッパ名の中で受け継がれている。
近年はインターネット上で「死にやすい」「最弱生物」で有名になってしまったマンボウだが、実際水族館という環境ではマンボウよりホホジロザメの方が断然死にやすい。
1990年代、マンボウは「海ののんき者」と呼ばれ、癒し系のイメージが定着していた。
なのに、そのイメージから現在のように「死にやすい」イメージに転換したのは何故だろうか?
インターネットに履歴が残っている現在であれば、まだ調べることができる。
本章ではその噂の発生から終息まで詳細を追求した。
マンボウはその形態や行動から様々な印象をもたれ、漁撈と関連している噂もある。
現代では消えかけた噂もここにまとめた。
本書は8万字前後で作られているが、原案は10万字ほど書いてしまった。
まだまだマンボウのネタはたくさんもっているので、第2弾、第3弾と本を書いていきたいと考えている。
本書オリジナルとしては、各節の末尾にその内容を短くまとめた「マンボウ川柳」を付けている。
レビューでは不要だという意見も散見されたが、日本人である私が書いた日本らしい本として川柳は欠かせないと思っている。
本書に活用した参考文献は、ページ数の都合上、すべて載せることができなかった。
そのため、私のHP上で公開することにした。
各説ごとにまとめたので、重複する参考文献は多いが、気になる人はリンク先を見て欲しい。
本一冊を書くのにも多くの本を読む必要があることを改めて思い知った。
本書は一般向けの本であるが、研究資料としても利用できるように、引用形式も英文表記も決めてある。
もし引用・参照する場合は「澤井悦郎.2017.マンボウのひみつ.岩波書店.東京,208pp.」もしくは、「Sawai E. 2017. The mystery of ocean sunfishes. Iwanami Shoten,Publishers. Tokyo, 208 pp」と表記すると良いだろう。
本書は日本語で日本人向けに書いたのだが、個人的には英訳して世界中に配信したいと考えている。
特に1章の解剖に関する知見は研究の1次資料としても大いに役に立つものと考えている。
本書の翻訳は翻訳会社から出版社への依頼がないと成立しないようなので、是非、英訳してくれる会社があれば、出版社に連絡して欲しい。
英文なら私自身も表現の良し悪しをチェックすることができるので、本書の英訳依頼がないか心待ちにしている。
最後に、一般の人がマンボウを見ることができるのは水族館だけだろう。
当たり前のように飼育されているマンボウには多くの秘密と研究者の努力が隠されている。
是非、本書を持って、実物のマンボウを観察してほしい!