アルコールによる共生選択が養菌性キクイムシ(Ambrosia beetle)の菌栽培に役立つ

[紹介論文] Ranger CM, Biedermann PHW, Phuntumart V, Beligala GU, Ghosh S, Palmquist DE, Mueller R, Barnett J, Schultz PB, Reding ME, Benz JP. (2018) Symbiont selection via alcohol benefits fungus farming by ambrosia beetles Proc Natl Acad Sci 115(17), 4447-4452.

[論文URL] https://doi.org/10.1073/pnas.1716852115

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■要約

養菌性キクイムシが新しい樹木に侵入すると、エタノールを含む幹の組織に穴を掘り、共生菌を栽培する。今回、筆者らはこの養菌性キクイムシが、宿主の樹木でのコロニー形成にエタノールを利用していることを示した。エタノールは「雑多な」競合する菌類の成長を阻害し、共生菌の成長のみを促進させることができる。筆者らは、養菌性キクイムシがエタノールを食料生産の最適化に役立てていると主張する。

■概要

これまで、エタノールが養菌性甲虫を引き付けることが知られていた。引き寄せられた、Xylosandrus germanus (black timber bark beetle) や他の種は、樹木へ噛みつき攻撃する。エタノールを含む生育環境ではより多く産卵することも観察された。これは食料となる菌のバイオマスが、エタノールから良い影響を受けて、食料供給が増えたためであるとのこと。エタノールに反応する養菌性キクイムシから採取されたAmbrosiella属菌とRaffaelea属菌は、

(i) エタノールを含む培地のバイオマスの改善
(ii) 強力なアルコールデヒドロゲナーゼ酵素活性
(iii) エタノールによって生育阻害される、菌養殖に競合する雑多な種(Aspergillus属菌、Penicillium属菌)に対するアドバンテージ

について直接的、間接的に良い影響を与えていると考えられる。養菌性キクイムシは自身と共生菌のために、アルコールが潤沢な生息域の選択を調節しているのかもしれない。本内容は、利益をもたらす共生者の生物学的な選択方法や、微生物共生におけるアルコール産生性の共生者(酵母など)の存在などと関係していると考えられる。

■実験結果

・エタノール濃度と樹木への振る舞い
ハナミズキ(Cornus florida) とアメリカハナズオウ (Cercis canadensis) について、濃度の異なるエタノール水溶液を添加し養菌性キクイムシ(X. germanus)の振る舞いを観察した。どちらの樹木でも濃度が濃くなるほど、多くのX. germanusが攻撃をかけることが観察された。一方、産卵や蛹の数は、0~5パーセントの間で最も多くなることが確認された。

・エタノール培地における共生菌の培養
共生菌のAmbrosiella grosmanniaeAmbrosiella roeperiRaffaelea canadensisが、濃度の違うエタノールを含んだ培地でどの程度成長するかを、乾燥質量、コロニーの面積、及び質量と面積から算出されるバイオマス濃度で比べた。乾燥質量とコロニーの面積は、5%までに下がる傾向にある一方、バイオマス濃度は上昇する傾向を示した。また同様にship-timber beetle(Elateroides dermestoides)の共生菌でありエタノールに誘引されるAscoidea hylecoetiについても実験を行った。Ascoidea sp.ではエタノール濃度と乾燥質量に負の相関がみられた。Ambrosiella属菌と競合関係にあるPenicillium sp.X. saxeseniiから採取された)では、培地のエタノール濃度が上昇するにつれ、急激に乾燥質量が減少した。Aspergillus sp.X. saxeseniiから採取された)でも、乾燥質量は培地のエタノール濃度と負の相関関係を示した。

・アルコールデヒドロゲナーゼ活性測定
A. grosmanniaeA. roeperiR. canadensisAspergillus sp.Penicillium sp.のプレートに対し、2%のエタノールを暴露して、アルコールデヒドロゲナーゼの活性を調べた。A. grosmanniaeR. canadensisがエタノール暴露後6時間後と93時間経過後も高い活性を示した。Aspergillus sp.はADH活性が見られず、A. roeperiPenicillium sp.では活性が微かに誘起された。

■感想

共生菌を栽培するように振る舞う、変わった生活様式の養菌性キクイムシに関する論文です。日本でも「ナラ枯れ」を起こして環境に悪影響を及ぼしているのですが、研究は途上のようです。論文中で幹に到達し穴を空ける個体を「foundresses 」と女性名詞で表現していますが、これはキクイムシの中で環境を創立する個体に雌雄差があり*、この養菌性キクイムシは「メス創設型」であるためにこのような表現となっているようです。

■参考

* 上田 明良, 水野 孝彦, 梶村 恒 (2009) キクイムシの生態 : 食性と繁殖様式に関する研究の現状と展望, 日本森林学会誌 91 巻 6 号 p. 469-478

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