研究背景
トロイダル流は乱流の低減やMHD不安定性の安定化など,プラズマの閉じ込めにおいて重要である.また,NBIのように直接運動量を与えていないにもかかわらずトロイダル流が変化する自発的トロイダル流は様々なトカマク装置・ヘリカル装置で観測されているが,発生機構は十分明らかにはなっていない.KSTARでは,L-modeプラズマにおいて,NBIで維持しているプラズマにECHを重畳させることでトロイダル流が変化する実験結果が得られている.トカマクプラズマでは,乱流が残留応力を通して正味のトルクを生むことで自発回転が生じると考えられている.この論文では,ECHによるトロイダル流変化の機構を明らかにするために,KSTAR実験に対する1次元輸送解析・線形ジャイロ運動論シミュレーションを行う.
実験結果
ECHをon-axis(ρ=0.15)とoff-axis(ρ=0.55)の2パターンで入射する.on-axis ECHでもoff-axis ECHでも,入射後トロイダル流が減少し,減少量はoff-axisの方が大きい.ECH入射中,電子密度が増加するが,on-axisとoff-axisでほとんど差がないため,電子密度はトロイダル流に対して重要ではないと分かる.また,フーリエ解析したときの位相の遅れを比較することで「Te増加→トロイダル流変化→Ti減少」という時系列で変化する.さらに,Tiのプロファイルもon-/off-axisでほとんど一致している.これらの結果からTiもトロイダル流変化に対して重要ではないことがわかる.
輸送解析
実験データを用いて熱拡散方程式を解くことで拡散係数を計算し,プラントル数PrをPr=0.75, 1.0, 1.25と仮定することでを評価する.さらにそのを用いてトロイダル運動量に関する拡散方程式(釣り合いの式)を解くことで,非拡散項を評価する.
結果として,がやと相関が強いパラメータとなっており,電子温度勾配がイオン熱輸送や非拡散項の駆動力であることがわかる(?).また,–の図からは明らかな関係が見られず,ピンチ項は重要ではないということが分かる.(ピンチ項が重要であればに比例して非拡散項も増加するハズ.)ということで,非拡散項は残留応力であると考えられる.
ジャイロ運動論 不安定性解析
NBIプラズマでは全体的にITGモード,on-axis ECHでは全体的にTEMモードが励起されるが,off-axisでは周辺領域で特に強くTEMモードが励起される.このことによって,off-axis ECHのときによりトロイダル流の減少が大きいことが説明できる.
コメント
輸送解析の章で「電子温度勾配がイオン熱輸送や非拡散項の駆動力であることがわかる」と論文中では述べていたが,図から分かることは相関があることまでで,駆動すると言ってしまっていいものかどうかは不明ではないか?ECHを入射すると電子加熱が主になるので,が増加するのは当然で,の他に要因があったとしても同様のヒステリシスを示す可能性はあるハズであり,明言は出来ないと考える.
また,論文中でも言及されていたが,線形計算しか行っていないので,より正確で定量的な評価をするためには非線形計算を行うべきである.KSTARの話ではないが,Y.Idomura, Phys. ofPlasmas(2017) ではNBI->ECHによるITG->TEMの切り替えによるトルク変化を非線形計算により評価している.