権威者に命令された状況では、多くの人が残酷な行為をしてしまう “服従” の心理を、実験的に明らかにした研究です。
<方法>
実験参加者
新聞広告とダイレクトメールによって募集された20~50歳の男性40人で、イエール大学の記憶と学習についての研究だと説明されていました。参加者には報酬が支払われましたが、実験を途中でやめても報酬は受け取れると教示されました。
手続き
各実験につき、実験参加者1人と、事前に訓練を受けたサクラ1人が実験に参加しました。参加者には、実験は罰と学習の関係を調べる研究で、2人のうち一方が教師の役、もう一方が生徒の役をすると説明されました。教師役と生徒役への割り当てはくじで行われましたが、実際には参加者が教師役、サクラが生徒役になるよう決まっていました。その後、生徒役は「電気椅子」装置に拘束され、教師役は「ショックは非常に痛いが後遺症はない」と説明されました。
教師役は隣の部屋のショック発生機で課題を行いました。ショック発生機には30個のレバーが水平に設置され、各レバーには15~450ボルトの電圧が明記されていました。さらに「軽いショック」から「危険:重度のショック」までラベルがつけられていました(最後のラベルより大きい2つのレバーには単にXXXとマークされていました)。
学習課題は、単語のペアを学習する課題でした。教師役は、生徒役が間違った回答をするたびにショックを与えるよう指示されました。ショックは15ボルトから始まり、生徒役が間違った回答をするたびにレベルを1つ上げるよう指示されました。(実際にはショックは与えられませんが、生徒役のサクラの演技によって、参加者はショックを与えていると信じました)
ショックが300ボルトになると、生徒役が部屋の壁を叩く音が聞こえ、回答が表示されなくなりました。この段階で多くの参加者は実験者に指示を仰ぎましたが、実験者は、生徒役にショックを与えるよう指示しました。
参加者が実験者の指示を求めたり、続けたくないと言ったときは、実験者は実験を続けるよう促しました。実験者に4回促された後も、参加者が実験の継続を拒否した場合、実験は終了しました。
<結果>
実験にあたって、事前にイエール大学の学生14人に結果を予測してもらったところ、最大のショック(450ボルト)まで続けるのはほんの少数(平均1.2%)という予測でした。
しかし、実験の結果は、40人の参加者のうち26人が最大の450ボルトまでショックを与えました。14人は450ボルトに達する前に実験をやめましたが、300ボルトより下でやめた参加者は1人もいませんでした。
多くの参加者には、強力なショックを与える際に、極度の緊張を示す反応が見られました。神経質的な笑い、痙攣、汗、震え、吃音、唇の咬み、嘆き、爪を体に刺すといった行動が観察されました。
事前の予想に反し、多くの参加者が危険なレベルまで指示に従ったこと、その際に極度の緊張を示す反応が見られたことは、この研究の重大な発見です。