高齢者は偏見や差別の対象になることがあります。例えば、就業上の差別にあったり、能力が低いというステレオタイプにさらされたりします。このような高齢者に対する偏見をエイジズムと言います。
エイジズムは、他の偏見と同じように特定の集団に対する偏見ですが、他の偏見とは異なる大きな特徴があります。それは、高齢者には誰もがいずれなるということです。自分がいずれなる姿に、どうしてネガティブな偏見を持つのでしょうか。この研究では、高齢者に対する偏見が存在する理由を、存在脅威管理理論 (TMT; Greenberg, Pyszczynski & Solomon, 1986)を用いて説明しています。
TMTは、私たちは避けられない「死」という運命に脅威を感じており、その脅威から自分を守るために様々な反応をするという理論です。
この理論に基づき、本論文では、高齢者は私たちに自分がいつか老いて死ぬという運命を思い出させるため、私たちは自分と高齢者を引き離してその脅威を減らそうとし、エイジズムが生じるという仮説を立て、以下の3つの実験で実証しました。
実験1
高齢者の写真を見るグループと、若者の写真のみを見るグループをつくり、それぞれの写真を見た後に単語完成課題を行いました。高齢者の写真を見たグループは、若者の写真を見たグループよりも、死に関する単語を多く完成させ、死の概念を活性化させていたことがわかりました。
実験2
自己の死について記述する課題をするグループと、他の課題(歯痛について記述する課題)をするグループをつくり、高齢者との類似性認知と、高齢者に対する態度を測定しました。自己の死について記述したグループのほうが、自己と高齢者の類似性を低く、高齢者をネガティブに評価していました。
実験3
実験2とほぼ同様の実験ですが、事前に「自分と平均的な高齢者がどのくらい似ていると思うか」をたずねておきました。その結果、事前に自分と高齢者が似ていると回答していた人ほど、死について考えた後に、自己と高齢者の類似性を低く、高齢者をネガティブに評価していました。
以上の結果から仮説が支持され、他の偏見と比べたときのエイジズムの特徴が示されました。