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アルツハイマー病の起因と予防について
1.血漿遊離アミノ酸にはアポリポ蛋白E由来のアミノ酸が存在する
2.アルツハイマー病の起因と予防について
〔キーワード〕
血漿遊離アミノ酸(plasma free amino acids)
アポリポ蛋白E(apolipoprotein E:apoE)
システイン(cysteine:Cys)
アルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD)
〔著者名〕
小林正嗣(Kobayashi Masatsugu)
大津市湖城が丘12-1-407 kobay48@nifty.com
京都大学理学部動物学科(理33)離籍 臨床検査技師
はじめに
アポリポ蛋白E (apolipoprotein E:apoE)の20種の各アミノ酸残基数と血漿遊離アミノ酸の当該アミノ酸の各濃度との間には強い相関が認められることから,血漿遊離アミノ酸にはapoE由来のアミノ酸が存在することが考えられる.そうであれば,apoE,すなわち,アポリポ蛋白E3(apoE3)には存在するシステイン(cysteine:Cys) がアポリポ蛋白E4(apoE4)には存在しないことから,apoE4のヒトの血漿遊離アミノ酸にはapoE由来のCysが欠損することが考えられる.一方,apoE4とアルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD)との関連が報告されていることから,apoE4のヒトの血漿遊離アミノ酸におけるapoE由来のCysの欠損がADの起因となっている可能性が考えられる.
1.血漿遊離アミノ酸にはアポリポ蛋白E由来のアミノ酸が存在する
表1は20種のアミノ酸(ヒトの蛋白を構成する20種のアミノ酸)からなるアポリポ蛋白E(apolipoprotein E:apoE,すなわち,apoE3)1,2) の各アミノ酸残基数と文献例13) の当該血漿遊離アミノ酸の各平均濃度との対比である.文献例1は健常成人ボランティア51人の朝空腹時の血漿遊離アミノ酸の平均濃度(μmol/ℓ,High Performance Liquid Chromatography:HPLC法による)である.
表2にapoEの各アミノ酸残基数と 文献例1の血漿遊離アミノ酸の当該アミノ酸の各平均濃度(μmol/ℓ)との相関係数 r=0.959*** (p<0.001)を示す.
相関係数を求めるにあたっては,インスリンと成長ホルモンの作用により血漿中での代謝の亢進が推測されるロイシン(leucine:Leu)とアルギニン(arginine:Arg)を除外した.また,2個のシステイン(cysteine)が繋がったシスチン(cystine)として測定されるシステイン(cysteine:Cys)を除外した.アスパラギン酸(aspartic acid:Asp)とアスパラギン(asparagine:Asn),グルタミン酸(glutamic acid:Glu)とグルタミン(glutamine:Gln)についてはそれぞれ同じアミノ酸残基であることから,それぞれの和(Asp+Asn,Glu+Gln)を用いた.
図1に表2のapoEの各アミノ酸残基数と文献例1の当該血漿遊離アミノ酸の各平均濃度(μmol/ℓ)との相関図を示した.
apoEの各アミノ酸残基数と血漿遊離アミノ酸の当該アミノ酸の各平均濃度との間に高い相関係数が認められることは,血漿遊離アミノ酸にはapoE由来のアミノ酸が存在することの証左であろうと考えられる.
この表2の例に示すような高い相関係数は血漿遊離アミノ酸の平均濃度のみならず個々の測定例やあるいは文献例24)の血漿遊離アミノ酸濃度(mg/100ml) などからも容易に計算できるので,追試確認していただけるようであれば幸いである.
なお,血漿遊離アミノ酸にapoE由来のアミノ酸が存在するとすれば,それはなぜヒトが断食や飢餓(空腹)を生き延びることができるのかを説明するものでもあり,今世紀の新しい知見となるものと思われる.
2.アルツハイマー病の起因と予防について
1)アルツハイマー病の起因について
前項で,アポリポ蛋白E(apolipoprotein E:apoE,すなわち,apoE3)の各アミノ酸残基数と血漿遊離アミノ酸の当該アミノ酸の各濃度との相関性から,血漿遊離アミノ酸にはapoE由来のアミノ酸の存在が考えられることを述べたが,血漿遊離アミノ酸にapoE由来のアミノ酸が存在する とすれば,アポリポ蛋白E4(apoE4)1,2) のヒトでは,apoE(すなわち,apoE3)には1個存在するシステイン(cysteine:Cys)がapoE4には存在しないことから,その血漿遊離アミノ酸にはapoE由来のCysが欠損することが考えられる.Cysはいわゆる非必須アミノ酸であり 食餌からは摂取されにくいことから,このapoE由来のCysの欠損による血漿遊離アミノ酸におけるCysの欠乏は,すなわち,蛋白の形成に必須の20種のアミノ酸(いわゆる蛋白形成アミノ酸)の1つであるCysの欠乏であり,ヒトの身体になんらかの不具合をもたらすことが考えられる.一方,apoE4とアルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD)との関連の可能性があること5,6,7),すなわち,apoEはapoE3が正常型(野生型)であり,apoE4はADの危険因子と考えられていることから,「apoE4のCysの不在によるその血漿遊離アミノ酸におけるapoE由来のCysの欠損」がADの発病に関係している可能性が考えられる.
2)血漿Cysの補完がADの予防に有効である可能性が考えられること
「apoE4のCysの不在による血漿遊離アミノ酸におけるCysの欠乏」がADに関係しているとすれば,血漿Cysの補完がADの予防に有効である可能性が考えられる.しかしながら,血漿遊離アミノ酸の濃度は必須アミノ酸では蛋白食による変動(増加)が明らかであるが,非必須アミノ酸では蛋白食による変動が明らかでないことから8),血漿Cysの補完は容易なことではないものと思われる.また,その補完にたとえばCys製剤の輸液が有効であるとしても,「apoE4のCysの不在による血漿遊離アミノ酸におけるCysの欠乏」は生来の,生涯にわたることであり,輸液の適用は簡単ではない.
「apoE4のCysの不在による血漿遊離アミノ酸におけるCysの欠乏」の補完には,その補完をCys製剤の経口摂取で可能とするような創薬が望まれる.
本稿がADの解明と創薬研究の一方向となるようであれば幸いである.
文献
1) Weisgraber,K.H. , Rall,S.C.,Jr. & Mahley,R.W. Human E apoprotein heterogeneity. Cysteine-arginine interchanges in the amino acid sequence of the apo-E isoforms. 1981. J Biol Chem 256,9077-9083. (PMID:7263700)
2) Rall,S.C.,Jr. , Weisgraber,K.H. & Mahley,R.W. Human apolipoprotein E. The complete amino acid sequence. 1982. J Biol Chem 257,4171-4178. (PMID:7068630)
3) 小林正嗣,村田和弘,木村隆:血漿アミノ酸の各平均濃度の比率とアポ蛋白Eの各アミノ酸残基の存在比率との類似性―血漿アミノ酸のアポ蛋白E由来の可能性.2002 臨床検査 46:1167-1172.注)1167頁の右側10行目から12行目までの3行を削除.1168頁の表1のアポ蛋白のEをE(E3)に修正して,当該欄のCysの数2を1に訂正,及び,Argの数33を34に訂正.
4) William H.Stein and Stanford Moore.The free amino acids of human blood plasma.1954.J Biol.Chem.211:915-926.(PMID:13221597)
5) Corder,E.H. et al. Gene dose of apolipoprotein E type 4 allele and the risk of Alzheimer’s disease in late onset families. 1993. Science 261,921-923. (PMID:8346443)
6) Maestre,G. et al. Apolipoprotein E and Alzheimer’s disease: ethnic variation in genotypic risks.1995.Ann Neurol 37, 254-259. (PMID:7847867)
7) 奥泉薫,辻省次:アルツハイマー病危険因子としてのアポリポ蛋白質Eとその受容体の分子遺伝学.1996 蛋白質 核酸 酵素41:22-26
8) 奥田豊子,高谷小夜子,吉岡利治,他:摂取たん白レベルと血漿遊離アミノ酸 1972 栄養と食糧 25:565-571
*本稿の表1,表2に引用するデータは,「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」の第1章第3適用範囲の1適用される研究のウの①②に該当し、本倫理指針の対象外である.
*利益相反なし
Copyright © 2017 Kobayashi Masatsugu